いや、まあ「全て」は言い過ぎだけど。
※以下、第83話までのネタバレ注意
私は気付いてしまった。
四葉の(特に春休み以降の)振る舞いは、そのほとんどが偽りなのではないかということに。
きっかけは些細なことである。
私は四葉が「春休みの旅行でのキスの相手=真の花嫁」ではない根拠を探していた。
そして、一花、真の花嫁説【五等分の花嫁 9巻感想】でも書いたように、見つけ出した理由が、「彼女が他の姉妹を優先する良い子ちゃんだから」というものだった。
これだけ「わたし、姉妹の為に尽くす無私のヒロインです!」みたいな顔をしておいて、正体がバレないと思ったら抜け駆けしてキスをしようなどあり得るだろうか?
いや、あり得ない。
もし、そうだとすると、四葉は一花など目ではないくらいの腹黒女ということになってしまう。
ナイナイ。彼女がキスの相手という線は絶無だ。
……と、ここで気づいたわけだ。
逆に言うと、もし四葉がとんでもない腹黒女だった場合、キスの相手という可能性が残ることにならないか?
そして、そこから一気にパズルのピースは組み上がっていく。
そうだ。第72話での「ないよ。あり得ません」の表情から考えても、四葉が既に内心フータローに対して恋愛感情を抱いているのはもはや疑いようもない。
だとすれば、本当にそんな状況で、他の姉妹の恋路のために尽くせるものだろうか?
そう。そうだったのだ。
思えば彼女の行動はあまりに不自然過ぎた。
最新話である第83話からしてそうだ。
こじれにこじれた姉妹の仲に、ようやくフータローが介入し、お互いに全てを吐き出すことで一つの修復の機会が生まれようとした。
それを台無しにしたのは四葉である。
絶妙なタイミングでの登場によって。
同じことが前にもあった。
五月が己の抱える秘密について意を決してフータローに語ろうとしたとき、これまた絶妙なタイミングで登場し、有耶無耶にしている。
お分かりだろう。これは都合の良い偶然などでは決してない。
密かに聞き耳を立てていた四葉が、自らに都合の悪い会話の流れになったと見るや、意図的に話の腰を折っていたのだ。
まるで純粋無垢な童女のように振舞い、嘘など吐けぬ裏表のない人物として他者に印象付けながら、その実、姉妹の仲が修復されないよう画策していたのである。
そう考えれば、春休みの旅行での一花との会話の意味も変わってくる。
あの時、四葉が背中を押したことで、一花は自らの願いを優先し、妹たちを押し退ける決意を固めた。
四葉が良かれと思ってしたことが裏目に出たのだと、彼女自身も語っている。
読者も皆、そう思い込まされていた。
だが、そうではなかったのだ。
四葉は自らの言葉によって、一花が妹を蹴落としてでもフータローを手に入れようとすることを知っていた。
少なくとも、一花の「したいこと」がフータローと付き合うことだと初めから認識していなければ、三玖に変装した姿を見ただけで、咄嗟にこんな言葉が出てくるはずがない。
四葉の目的は最初から、一花を利用して姉妹の間に亀裂を入れることだったのである。
だからこそ、フータローの仲裁による修復の機会を妨害したわけだ。
フータローへの誕生日プレゼントの時にわざとらしい懺悔をして見せたのも、姉達が抜け駆けすることを見越して、彼女らの心に罪悪感を植え付ける為であろう。
【あり余る自信】
そう、最初から明らかだった。
自らの魅力にまるで気付いていない、子供のような人格だと騙されていたが、そんな訳がないことはもう何度も描かれていた。
「何で私が上杉さんの味方をしているか解りますか?」
「違いますよ」
「好きだから」
膝枕をしながらフータローをからかうこの場面。
当時は、お転婆なヒロインが不意に見せた小悪魔な一面程度に捉えていたが、そもそもこの台詞、よほど自分に自信がある女からでないと出てこない言葉だ。
その後も、フータローと出掛けることを「デート」と称したり、あまつさえ彼の頬に付いたクリームを舐め取り、しかもそれを「家庭教師のお礼」などと嘯いた。
言うまでもなく、まるで異性として好意を抱いていない相手からいきなりこんなことをされれば、ただただ気持ちが悪いだけである。
だが、四葉は何の迷いもなく決行した。
つまり、
「自分に膝枕されれば男は悪い気はしないだろう」
「自分に好きだと言われたら男は動揺するに違いない」
「自分とデートできれば男は喜ぶはず」
「自分が頬を舐めることは男にとってご褒美になる」
この確信が四葉の中にあったのだ。
彼女は最初から元気印の精神幼女系のヒロインなどではなかった。
自らの男受けの良さを自覚した上で、男を手玉に取るナルシストだったのである。
【深すぎる愛】
そして、四葉の恐ろしさが垣間見えるものがもう一つ。
フータローの台詞から考えて、四葉は彼の誕生日のプレゼントに本当に千羽鶴を送っている。
いや、これ今書いてて気づいたけど怖すぎるだろ!?
自分も模試の勉強をしている中で、休憩時間中に千羽鶴を折り続け、それを完成させてんの!?
狂ってるよ!!
怖ええよ……怖すぎるよ……何なのこの女……。
この時点でもう闇が深すぎて底が全く見えねえよ……。
四葉はもうこれ程の狂気の行動に出るほど、フータローへの愛を止められなくなっているわけだ。
一花に言った「仲良くしたいと言った子も次の日には一花とお喋りしてたっけ」。
これは過去のことだけではない。今のフータローのことも含めた恨み言だったのだ。
思い返してみれば、最初からフータローに対して好意的で、常に彼を支え続けてきたのは四葉なのである。
それなのに、後からフータローと仲良くなった姉妹達が、自分を差し置いて親密になっている。
その事実を、四葉は受け入れられなかったのだろう。
【目的】
では、四葉の目的は何なのだろうか?
なぜこのように姉妹の仲を引き裂くような真似をしたのだろう。
これは中々難しい分析にはなるが、数少ない四葉の本音が漏れ出した場面と思われる、上述の「ないよ。ありえません」の台詞が一つのヒントになるだろう。
つまり、四葉は自分がフータローの恋人になれるとは考えていないのだ。
彼女が他の姉妹を助けたいと思っていること。
他の姉妹には勝てないと諦めていること。これらは嘘では無い。
だが、その一方で、心の底では四葉は未だフータローに強く執着している。
この矛盾が彼女の心を引き裂いてしまった。
そう、四葉の心はもうとっくに壊れてしまっているのである。
フータローを諦め、彼を想う姉妹を助けようとしているのも本当だが、それと同時に全員に肩入れする事で、姉妹を泥沼の争いに陥れた。
そして、この修羅場を永遠に続けようとしているのだ。まるで戦争中の両国に武器をばらまき、戦火を拡大する死の商人のごとく。
姉妹の間で足を引っ張り合えば、フータローを巡る争いはいつまでも終わらない。
フータローを巡る争いが終わらなければ、彼を誰にも取られないままでいられる。
最近の展開で一部の読者から一花がヤンデレなどと言われているようだが、なんのなんの、一花の行いなど可愛いものである。
真の闇にして病みヒロインは、四葉だったのだ。
かつて二乃や一花が志向していた「ずっと今が続いて欲しかった」という仮初の願い。
これに最も囚われていたのが四葉だということであろう。
「みんなの為に尽くさなければならない」という義務感が、これほど大きく深い怪物を生み出してしまったわけだ。
【四葉は勝利ヒロインになれるか?】
さて、話を最初に戻そう。
四葉が(自覚無き)腹黒ヒロインならば、彼女が抜け駆けしてフータローにキスを迫ったヒロイン=真の花嫁という線も復活することになる。
だが、結論から言うと、やはり彼女が勝利ヒロインとなる可能性は低いと言わざるを得ないだろう。
彼女の闇はあくまでも「はっきり自覚できていない」という点に大きな特徴がある。
一花の場合は自覚をもって「したいこと」を貫き通す決意を固めたのだから、抜け駆けしても筋は通るが、四葉があの時点でいきなりキスに走るとはさすがに考え難い。
無論、心のどこかでは自分は他人が言うほど正直な人間でないという罪悪感はあるのだろう。
だからこそ、フータローに「真っ直ぐ素直」と評された時、それに反発するように揶揄ったわけだ。
だが、そもそも、春休みの旅行で最もキスに意識を向けていたのは一花だ。
しかも、「したいこと」を通すことを決める前から、フータローに自分の見分けがつかないのならと一度はキスを迫りかけている。
キスしたヒロイン=真の花嫁として最も可能性が高いのは一花ということに変わりはない。
おそらく、この作品の最後には闇を露わにした四葉がラスボスとして立ちはだかり、一足先にフータローによって救われた一花が、長女として妹を救済する展開になるのであろう。