もしかしたらカグラバチって私が思ってたよりだいぶ尖った漫画なのかもしれねえ。
【内通者ランク】
最初に第57話を読んだ時、私の中の評価は決して高くはなかった。
座村の登場から内通者と発覚するまでの期間が短すぎる上に、他にキャラが立った内通者候補もいない為、内通者を予想する楽しみがなかったからだ。
更に、内通者と判明した現在でも座村自身は悪人という訳でもないから、「裏切られた!」衝撃も薄い。
一方で、神奈備と対立する何らかの正義実現の為に裏切ったにしては、内通先の毘灼が民間人の被害を省みないチンピラ集団過ぎて説得力が無い。
「主人公たちが騙されていただけで、実は悪人」でもなく、「何らかの正義の為にやむなく裏切った」納得感も得られないのだから、内通者愛好家の会副会長代理補佐を務める私としては、座村の内通者ランクは『D』と判定せざるを得なかった。
【座村が裏切った理由】
しかしながら、「なぜ人死にを厭うはずの座村が、人の命を簡単に奪う毘灼に協力したのか」を真面目に考える内に、徐々に私の中の評価が変わっていった。
今回の57話の中で、座村が裏切った原因として「剣聖が非人道的な人物である」ことが示唆されている。
斉廷戦争での英雄とされている一方で、非人道的なのだとしたらおそらく、剣聖は戦争の中で民間人に対する大量虐殺を働いたのだろう。
他方、昼彦いわく座村は、『契約者こそ死ぬべきだ』と嘯いていたという。
六平たちに疎まれていたのは剣聖だけだが、座村にとっては剣聖の率いていた妖刀の契約者全員が万死に値する人間だったことになる。
これが何を意味するか?
つまり、座村や漆羽を含む5人の妖刀使いもまた、上官である剣聖の指揮の下、斉廷戦争において虐殺を行ったのではないだろうか。
と、ここまで考えて、毘灼に座村が協力した理由にハッと思い当たった。
毘灼とは、かつての斉廷戦争で妖刀使いに虐殺された人々の生き残りだとすれば、どうだろう。
【民族紛争】
斉廷戦争とは、「日本に襲来した敵」から日本を守った戦争とされている。
が、この「斉廷」という名称は、どう考えても日本国と別の国との戦争を表す言葉ではない。
故に、「日本国内での内戦ではないか」という推測は、連載当初から多くのカグラバチ読者の間で広まっていたように思う。
斉廷戦争は他国の侵略から日本を守る防衛戦争などではなく、日本政府の勢力圏内において多数派の民族が、反旗を翻した少数民族を滅亡に追いやった民族紛争だった。
毘灼とは、その戦争で敗北し、滅ぼされた少数民族の末裔だとすれば、全てに筋が通る。
座村は自身がかつて犯した虐殺の罪に苛まれ、その末裔に協力し、自身と同じ罪人と心中しようとしたわけだ。
【自虐的民族主義】
これを現実世界に例えると、現在のガザ紛争終結後のイスラエルで仮定すれば分かり易いかもしれない。
・神奈備体制下の日本=ネタニヤフ政権失脚後のイスラエル
・毘灼=生き延びたガザの住人が、イスラエルへの憎悪で結成した新ハマス
・妖刀の契約者=ガザ紛争でパレスチナ人への大量虐殺を行ったイスラエル軍精鋭
・座村=パレスチナ人虐殺の罪に苛まれ、贖罪の為に新ハマスに協力している元イスラエル軍人
といったところだろうか。
つまり、座村はたしかに人死にを厭うてはいるが、「斉廷戦争において民族浄化を働いた加害者である『我ら日本民族』は、被害民族の末裔たる毘灼に虐殺されても仕方がない」と信じているのである。
進撃の巨人で例えれば、カール・フリッツ王に近いだろう。
【内通者ランクの見直し】
「かつて自身が犯した虐殺を日本民族全体の罪として拡張し、その贖罪の為に共犯者である妖刀の契約者の抹殺と、敵対民族の末裔たる毘灼による日本民族への復讐に協力している」
これが座村の本当の姿なのだとすれば……内通者愛好家の会副会長代理補佐として、座村の内通者評価を改めなければいけないだろう。
座村の内通者ランクは堂々の『B』。
これが現時点における内通者愛好家の会としての暫定的ながら公式の格付けだと、カグラバチ読者の諸兄には認識して頂いて構わない。