※以下、ネタバレ注意 素晴らしい出来栄え。
少なくとも、どうでもいい家族の話に延々と尺を使い、退屈極まりなかった米国版に比べると雲泥の差である。
エヴァQで地の底にまで落ちていた庵野監督への好感度も、エヴァ序の頃くらいまでには回復した(エヴァ破のときの好感度まで戻ることは、Qを作り直しでもしない限り永久に無いと思う)。
ゴジラ映画は父が好きでビデオ等を収集していたので、私も結構な数を見たはずなのだが、いかんせん幼い頃のことで、内容はほとんど覚えていない。
ただ、私が見た作品の中でのゴジラは、敵怪獣を倒す善玉という印象が強かった(さすがにガメラ程ではないが)から、ゴジラが終始、冷酷な恐怖の対象として描かれていたのは新鮮だった。
巷では「もっと人間ドラマ(登場人物の私生活など)があった方が感情移入できた」という意見もあるようだが、徹頭徹尾「祖国を守るために奮闘する政治家・官僚・軍人」を描いたからこそ、緊張感を維持し続けられたのではないかと思う。
一つだけ引っ掛かりを覚えたのは、「危機の中でこそ日本人は変わり、瓦礫から立ち上がる」という作品のテーマ。
これは正直、醒めた目線でしか見られなかった。
思い出したのは、『TPP亡国論』で有名な現役の経産官僚である中野剛志さんの言葉である。
「やっぱり(東北の人々を)見捨てたんですよ。つまり、この国はですね、危機が起きたら立ち上がる国じゃないってことが今年証明されたんだ、と。この国はもう駄目なんですよ。期待しろとか希望を持てとか言うけど、駄目なことを証明したじゃないか! 1000年に一度の危機が起きたのに見捨てたじゃないか! そうでしょう? いい加減、『日本を信じろ』なんてふざけたことを言うのは止めろよ、もう」
この言葉を聞いたとき、まさに夢から覚めたような気がした。私自身、その幻想を心のどこかで信じていたからだ。
「ミサイルでも落ちた方が日本人の平和ボケには良いんじゃないか」とは、ネットなどではよく言われる話で、東京都知事を務めた某作家ですら同様の発言をしていたが、これなどは典型的だろう。
危機が起きれば日本政府や日本国民は覚醒するという「甘い夢」を見ているわけだ(『東のエデン』というアニメに出てくる財務官僚や、『終戦のローレライ』の赤い彗星似の大佐などがこのタイプだった)。
だが、中野さんの言う通り、東日本大震災への対応で、そんな都合の良いことは現実には起こり得ないということが証明されてしまった(本当はとっくの昔に証明されていたのだろうが)。
変革のために危機を望むのは、楽天的で危険な発想でしかない。
例えゴジラが日本に上陸しようと、東日本大震災が起きても変わらなかった日本政府と日本国民が突然何かに覚醒することなど、現実的にはありえない。
結局のところ、「グレートリセット」、「ショック・ドクトリン」ではなく、ほんの少しずつ地道に変わっていく以外には無いということなんだろう。
もっとも、「ゴジラが現れても日本は変わりませんでした。ちゃんちゃん♪」なんてオチ、創作の世界でまで観たくはないのが人情だから、映画としては正解だとは思うけれど。
ちなみに、中野剛志さんの盟友である作家の佐藤健志さんの著書に『震災ゴジラ!』というものがある(シン・ゴジラの製作決定が2014年で、こちらの発行は2013年だからパロディというわけではない)。
作者によると、
佐藤健志(Writer/Critic)@kenjisato1966ただし「震災ゴジラ!」では、政府はゴジラを撃退するのではなく、「本当は野放し状態なのに撃退できたことにする」だけで済ませようとします。
2016/08/02 22:13:27
さて、真実はどちらに近いか。#シン・ゴジラ https://t.co/poPSUFNin4
ということらしい。
残念ながら、真実は『シン・ゴジラ』よりも『震災ゴジラ!』に近いだろうと、今の国情を見たならばそう思わざるを得ない。
【その他】
・「シン・ゴジラは子供向けじゃない」という意見もよく見かけたが、「ゴジラ怖えー! 主人公達カッケー! 自衛隊カッケー!」だけで子供も十分楽しめると思う。
・むしろ、あの映画を見て「子供では辿り着けない何かしら高尚な領域」を最大の魅力に感じた大人なんてまずいないだろう。
・後付けで考察を捏ね繰り回すことはあっても、それは「ゴジラ怖えー! 主人公達カッケー! 自衛隊カッケー!」という楽しさが、ファーストインプレッションとして残ったからこその行動であるはず。
・個人的にはこういう怪獣ものだと撃墜される際の断末魔の叫びを見るのが結構好きなので、そこが徹底的に描かれなかったのはちょっと不満かなあ。
・総理大臣が迫りくるビームに「う、うわあああ」と言うところが見たかった(逆に「間に合うものか……」でも可)。
・まあ、あの速度じゃそんな余裕はないんだろうけど。
・そもそも、あれをビームとは言わないのかもしれないが、私の中ではあの手の光線攻撃は全てビームなのである。
・前にビームの定義を聞いたけど、全く覚えていない。
・そういえば、首脳陣を輸送する場合は2機のヘリに分乗させて、首相やその代理となれる人間がいっぺんに死なないように配慮するんじゃないのかな。一瞬だったのでよく解らなかったのだが、撃墜されたヘリは1機だけだったような。
・基本的にCGに違和感はなくて良くできてたと思うんだけど、新幹線爆弾だけ急にチャチくなっていてちょっと笑ってしまった(その後の無人爆撃機も怪しかったけど)。
・予算が尽きたのか、時間が尽きたのか。
・細かすぎて伝わらないモノマネで、末吉くんに今作の平泉成のモノマネをしてほしい。
・科学的な用語がさっぱりわからなくて理解できなかったのだが、ゴジラが日本上陸するまで進化したのは、マキ博士が変な微生物を食わせたせいだという認識で良いんだろうか。だとしたらクソだなあいつ。
・ちょっと漫画版パトレイバーの廃棄物13号とニシワキ・セルを思い出した。