久々に同じ映画を二回観に行った。
※以下、ネタバレ注意
年の初めに『ブリッジ・オブ・スパイ』を観たときには、「今年はこれ以上の映画は出ないだろうな」と思っていたのだけれど、なんのなんの。※以下、ネタバレ注意
『シン・ゴジラ』も『君の名は』も、勝るとも劣らない出来であった。
さらに言うと、『ブリッジ・オブ・スパイ』も『シン・ゴジラ』も(何としても)二回観ようとまでは思わなった作品だったのに対し、今作は最初に鑑賞した三日後には再び劇場に足を運ぶ程にはまってしまった。
これはやはり、「全編、どの場面も見ていて楽しい」というのがあったんだろうなあ。
前の二作とも相当な傑作ではあるものの、常にこちらの気分をを盛り上げてくれるタイプの映画ではない。
かなりの接戦ではあるが、その軽快さを含めると、『君の名は』が今のところ今年最高の映画と言える(次点で『ブリッジ・オブ・スパイ』)。
私はこれまで新海誠監督の作品は、『雲のむこう、約束の場所』と『秒速5センチメートル』の二作を見ている。
『雲のむこう、約束の場所』は、はっきり言って内容も面白さもほとんど理解できず、鑑賞後は一緒に見た友人共々、ただただポカンとしていただけだったし、『秒速5センチメートル』に至っては主人公にイライラした印象が記憶の大半を占めている。
ようするに、私はこれまで新海誠作品を、ネットで過大評価されているよくあるアニメとしか思っていなかった。
しかし、『君の名は』はそれらの前作に比べると、まさに別次元だ。
妙に内向的な、難解、というよりは独りよがりなストーリーでもなく、『秒速5センチメートル』のようなこちらを苛つかせる陰湿さも全く無い。
ひたすらに爽やかで美しい、感嘆すべき映画に仕上がっていた。
例えば、凡百の創作物では陰鬱になりがちな「閉塞的な田舎」の描写一つをとってもそうだ。
ヒロインの宮水 三葉は故郷の糸森に何かと不満を漏らしつつも、一族に受け継がれている神職としての役目はきちんと果たそうとしている。
物語の初めの時点から神主の職を捨てた父親よりも、伝統を守ろうとする祖母に肩入れし、仲直りするよう求める妹に対して「大人の問題」と突っぱねる程だ。
また、同じく「家」に対する不満を持った勅使河原 克彦も、三葉とその友人の名取 早耶香が町の愚痴を溢したときには、思わずといった様子で二人を制止しようとしていた。
そして、物語の核心となる入れ替わり現象も、宮水家が代々お役目を継いできたからこそ、発生したものだということが判明する。
このバランス感覚。本当に一部の優れたクリエイターにしか持ちえないものである。
糸森を単なる「古臭く、取り残された集落」とはせず、受け継がれてきた伝統に対し、憧憬と敬意を払う世界観を作り上げたからこそ、あれだけ軽快なテンポの中で、浅薄な印象を観客に与えることのない重厚な作品となったと言えよう。
以前から評価されている新海誠監督ならではの美しい背景で、大都会東京の華麗さ、そして、より重点の置かれた糸森という「閉塞的な『村』」の優美さを「あえて」強調することで、多くの人の琴線に触れる最高傑作が完成したのだろう。
何度見ても飽きない。
娯楽性と芸術性、さらには福沢諭吉が最も重要なものの一つとした「懐旧の口碑(懐古の情)」と、あるいはそれに反する「大風雨」を見事なまでに融合してある(これは立花 瀧の面接での言葉に顕著である)。
それでいて、主点をそこには置かず、あくまでも立花 瀧と宮水 三葉の切なくも美しい恋愛模様を中心としたことで、嫌みの無い清涼なストーリーに仕上がっている。
過去の新海誠作品が好きだった知人は、今作を「75点」と評し、その理由として「綺麗すぎる」ことを挙げていたが、それこそがまさに『君の名は』を名作たらしめた要因だと私は思う。
これ程までに、あらゆる意味で「綺麗」な映画を作れる人間は、今後10年は現れることはないだろう。
【その他】
・予告の段階で「人格が入れ替わること」と「隕石が降ること」の二つの情報があったので、「両者の時間がズレており、片方から未来の情報が齎されることで歴史が改変される」という展開になることは予想がついた。
・これは以前プレイした『Remember11』というゲームが似たような設定だったからだろうなあ。
・このゲームさえやっていなければ、真相を予想できなくてもっと楽しめたかもしれないから、少し残念。
・ちなみに、『Remember11』の場合、これらの情報は序盤で明かされるから、ネタバレにはなっていない……はず。
・ただ、このゲームは「未完」と言っていいような酷い終わり方だったからおすすめはしない。どうせやるのなら名作との呼び声が高い『Ever17』にすべし。
・長澤まさみ声優上手いなあ。予告編でどういうキャラクターの声を当てるか知っていたにも関わらず、どれが長澤まさみなのか少し迷った。
・彼女以外も総じて素晴らしい演技だった。
・声優専門以外の役者を使ってはいても、この辺りはジブリとは全く違う。
・『秒速5センチメートル』のことがあるから、最後の方は三葉の指に結婚指輪がついていないかとか、最後も結局お互いに声をかけられずに別れるんじゃないかとか、終始ハラハラさせられたなあ。
・おそらく製作者側も狙って焦らしてたんだろうから、まんまと踊らされた気分で少々腹立たしい。OPから完全に秒速エンドっぽさを全面に出していたし。
・とはいえ、何にしろハッピーエンドで良かった。
・『秒速』は1話こそ素晴らしかったものの、2話では主人公の遠野 貴樹に終始イライラさせられた。
・送るつもりもないメールの文面を延々と考え続ける女々しさが許せない。
・しかも、あんな可愛い子に思いを寄せられて、それにも気づかずにウジウジウジウジと……。
・3話のEDを見る限り、篠原 明里も来ない手紙に落胆していたから、貴樹の方からも文通を止めちゃったみたいだしなあ。
・そんなに想っているなら出せ! 出し続けろ! 山本耕史を見習え。
・ラストは瀧が22歳で、三葉が25歳か。お互いにそれまで恋人を作ることもなかったのかなあ(かなあ、と言いつつあったら嫌だけど)。
・これは完全に私の趣味嗜好なのだけれど、この手の社会人になって再会という物語は、「学生時代のイチャイチャ」を2人に経験してほしかったという残念さがあって毎回モヤっとする(有川浩の『海の底』とか)。
・いくら美少女JKのものでも、口噛み酒はちょっとキツイな……。瀧が飲む場面でも衛生面がどうしても気になった。
・ティアマトーと聞くとどうしても『灼眼のシャナ』を思い出してしまう。
・宮水町長が彗星落下を予知したんじゃないかという記事はリアリティがあって面白かった。
・一つ不満があるとすると、三葉が父親をどうやって説得したか描かれなかったこと。
・どう考えても無茶な要求をいかにして聞き入れさせたか興味があったんだよなあ。
・「片割れ時」の会話ははっきり言って私にはこっ恥ずかしい。
・三葉が転倒し、手の平を見た時に「すきだ」と書かれていた場面なんかは、思わず変な笑いが出た。