では俺にとってはどうなのか。武元うるかの存在を、俺はどう認識しているのか? うるかはうるかであってうるかでしかない、なんてトートロジーでごまかすつもりは無い。無いが、決定的な解答を、俺は持ち合わせてなどいない。そうだろ? 中学からの同級生を指して「そいつはお前にとって何なのか」と問われて何と答えりゃいいんだ? ……いや、すまん。これもごまかしだな。俺にとって、うるかはただの同級生じゃない。もちろん「手のかかる生徒」でも「白銀の漆黒人魚姫」でもましてや「水泳界期待の星」でもない。あるはずがない。
<主流>
真面目な話、私はずっとこの作品の勝利ヒロインはうるかちゃんになると確信していた。
人気投票で桐須先生が1位となり彼女を褒め称えた時も、最終的に先生が勝利するとは微塵も思っていなかったし、うるかちゃんが勝つとの確信は全く揺らぐことはなかった。
無論、うるかちゃんが第三ヒロインとして登場した当初こそは、当然のことながら文乃か理珠のどちらかが勝利ヒロインなのだと考えていた。
しかしながら、成幸との交流を経て、彼女が再び水泳に打ち込めるようになった回想をきっかけに勝利の可能性が高いと考えを改め、更に成幸もまた父親の死の失意から立ち直ったのはうるかちゃんのお陰だったと描かれたことで、最早それは確信に変わった。
それ以外でも、成幸がうるかちゃんにゲームとはいえ「好き」と言うことを激しく照れたり、他のヒロインに先立って親密度が上がったり、うるかちゃんに好きな男がいる事に対して嫉妬を覚えたりと、明らかに彼女だけ作中の扱いが別格だった。
読者の中には、うるかちゃん回だったにも関わらず、最後には桐須先生オチになるようなパターンが増えたことで、人気の高い先生を勝利ヒロインにしようとしてるのではないかと考えている方もいたようだが、私は全くそうは思わなかった。
桐須先生は確かに出番こそ多くなったものの、その扱いは(言い方は悪いが)丸っきり「お色気担当」「ヨゴレ」といった風情であり、一方でうるかちゃんは常に清純な場面で優遇されていたからである。
筒井先生にとって、本当に、こう言っては何だが、うるかちゃんこそが特別なキャラクターであり、桐須先生は割とどうでも良いヒロインなんだろうな……と感じていたのが正直なところだ。
しかしながら、そんな私も今のような形でこのヒロインレースに決着がつくとは思いもよらなかった。
通常、ハーレムラブコメと言えば、あらかじめ複数のヒロインが主人公へ告白し、誰を選ぶべきか主人公が思い悩むのが定番なのに対して、まさか最終盤で最初から勝利ヒロインに告白させるとは。
これは予想外である。
その意味で、私は筒井先生を大いに評価したい。
うるか派だからという訳では無く、ハーレムラブコメの決着を新しい展開で描こうという姿勢は実に素晴らしいと思う。
なんともはや。
この『ぼくたちは勉強ができない』という作品は、一貫してうるかルートが描かれたと言って良いだろう。
同じく最終盤を迎えている五等分の花嫁なども、ぼく勉と同じく「物語の開始当初から勝負はついてた」というオチではあったが、とはいえ複数のヒロインが主人公に告白し、その好意の中で主人公が揺れ動く姿は描いていた。
他方、ぼく勉の場合はそれすらも無い。
物語の比較的序盤から成幸とうるかちゃんの別格の絆が描かれ、その後も一貫して彼女のペースが続き、最後までそれが曲がることが無かった。
最早うるかルートという『幹』に他のヒロインの話という『枝』が生えていたというか、うるかルートという<主流>の隣を他ヒロインの『傍流』が流れ、それがここに来て主流に合流し始めたと言ってもいい状況だ。
しかしながら、かといって作中でうるかちゃん以外のヒロインが冷遇されていた訳でも無い。
読者の中でこの期に及んでうるかエンドになるかどうか意見が二分される程度には、他のヒロインの物語も濃かったのである。
うるかちゃんという<主流>を一貫しつつ、『傍流』すらも描き切って、「見えていない」読者にはまるで「勝敗が読めないハーレムラブコメのヒロインレース」が行われているかのように錯覚させる。
筒井先生の幻惑の力は最早、ピュア並みと言っても過言ではあるまい。
残るは『傍流』に落ちた読者達をどう<主流>に引き上げるか……という問題であるが、これは中々難しい。
下手すれば彼らは傍流に堕ちたまま、我々<主流>の人間を引き摺り込む胎界物になりかねない。
敗北が決定した文乃・理珠・桐須先生・あしゅみぃ先輩の脱落の描写次第になってくるであろうが、誰と誰が成幸にきちんと恋愛感情を伝えるのか、あるいは伝えないのかも含めて、これからの展開はまさに見所しか無いと言っていいだろう。
あと、うるかちゃんのオッパイ前より大きくなってません?
怠慢より小さい設定だったけど、もしかしたら今は理珠に次ぐサイズになっている……?