くまと同じ、娘を持つ父として。
※以下、ネタバレ注意
【初見】
第595話でこのコマを始めて見た時、私の頭の中にあったのは多くの読者と同じく、「ボニーが泣くほどの関係性を持っていたのは、白ひげとエースのどちらなんだろう」という疑問だけであった。
当然のことながら、赤犬の台詞に大した意味を見出すことはなく、「赤犬が乗っているだけで『交渉せず』のメッセージになるなんて凄い」という感想に対して同調するだけで終わっていた。
【ボニーの涙の真相】
ところが第908話で事態は一変する。
頂上戦争においてボニーが涙を流した理由は、白ひげでもエースでもなく、バーソロミュー・くまだと明かされたからだ。
予想外ながらも納得の真相にド肝を抜かれたのは勿論だが、ここで改めてボニーに対する赤犬の台詞に注目したことで、初めてそこに引っ掛かりを覚えた。
まず、拘束されたボニーを見て「…………」という無言から始まり、「——だが、もう全て終わった……」と、くまが人格も含めて完全に改造されたことを口にするとき、逡巡するような文章表現が使われている。
そんな赤犬について、上記の記事で私は半ば、いや9割方冗談として「ボニーに同情してるのではないか?」と書いた。
気のせいなどでは無かった。
赤犬は本当に、くまとボニーに同情していたのである。
【ひばりの存在】
その事実に気付いたきっかけは、言うまでもなく、ひばり中佐の登場だ。
サカズキ元帥と同じ広島弁っぽい言葉遣いの彼女がその関係者であることは当然の話だが、ボニーとの会話を思い出したことから、私はひばり中佐が赤犬の娘なのを確信した。
自分自身も娘がいたからこそ、赤犬はボニーに対してやるせないよう口調で語りかけてしまったのだ。
愛する娘を人質に取られて自らを機械に変えた男と、そんな父の無残な姿を目の当たりにして泣く娘を、赤犬は悪と断じることはできなかったのである。
捕らえられたはずのボニーが何故か今も政府の手から逃れているのは、ひょっとしたらサカズキ元帥が手を回した結果という可能性すら考えられるかもしれない。
最終章に入って唐突に登場したかのようにも思えるひばり中佐だが、実際には595話の時点ではもう、赤犬の娘という存在の構想は出来上がっていたのだろう。
【サカズキという男】
それにしても、オハラの回想で強烈すぎる登場をかまし、頂上戦争においても正義キチガイと呼ばれるに足る恐ろしい言動をしていたサカズキだが、新世界編以降、その印象がどんどん塗り替えられていくよね。
ただの融通の利かない正義マンではなく、七武海の存在を許容していた時にも驚いたが、ここにきて父親としての一面も見せてくるとは。
ワンピースの中でも、ここまでじっくりと内面が深堀りされて、当初の印象と全く違う側面が描かれるキャラクターは珍しいよね。
ルフィにトラウマを植え付けた男でもあり、また、海軍という麦わらの一味の前に立ち塞がる最大の壁のトップだけあって、思った以上にその人物像は練り込まれているようだ。