この羂索の台詞が全てだと思うのよね。
※以下、ネタバレ注意
【天元様は羂索を利用している】
天元様は明らかに、羂索をあえて泳がせている。
この視点で改めて、羂索vs九十九戦を読み返してみよう。
【不自然な作戦】
天元様が九十九に提案した作戦には、どう考えても不自然な点がある。
それは、「羂索が領域展開した後に、九十九も領域展開で対抗する」という戦術の検討が全く無いことだ。
「最初に九十九が領域展開し、羂索の領域展開を誘う」案については、「九十九の領域を先に解体しなければならなくなる」「羂索は簡易領域で対抗してきて、領域展開を使わないかもしれない」として却下されたが、展開の順が逆ならば何ら問題は無いはずなのに、それについては一切言及されなかった。
確かに、羂索の術式が焼き切れるまで九十九が領域展開を温存できていれば、一気に優位に立てるだろう。
しかし、九十九自身、簡易領域で羂索の領域に10秒対抗し続けることに自信は無さそうであった。
(実際そうなってしまったように)領域を解体する前に九十九が大ダメージを食らってしまえば、領域展開を温存した意味も水泡に帰す。
ならば、領域展開で10秒押し合い、羂索の領域が解体できたタイミングで必殺の術式を畳みかけた方が成功の可能性は高いとも考えられるし、少なくとも検討の余地はあったはずだ。
九十九自身が「自分が先に領域展開して、羂索の展開を誘う」方法を提案していることから考えても、彼女も領域の押し合いには自信があったわけなのだから。
だが、実際にはその検討はなされることなかった。
私はここに、天元様の意図があったのではないかと睨んでいる。
彼女は、九十九に領域展開を使わせたくなかったのではないだろうか。
つまり、「九十九が領域展開した場合、羂索が敗れる恐れがある」あるいは「両者にバレずに九十九を始末できなくなる」というのが、天元様の見立てだったのだろう。
【間に合うか……!?】
さて、上記のように考えた場合、天元様の↓の台詞の意味合いも変わってくる。
彼女は「九十九の簡易領域が剥がれ切る前に羂索の領域を解体したかった」のではなく、「九十九が作戦を放棄して領域展開を行う前に、羂索の領域解体が進んでいることをアピールし、彼女に領域展開を自制させたかった」わけだ。
しかし、天元様にとって誤算が生じた。
羂索が領域を閉じない形での展開を行ったせいで、九十九に説明していたような外殻の解体ができなくなった。
だが、そこでグズグズしていれば、作戦実行不可能と見た九十九が領域展開を使いかねない。
だからこそ、天元様はここまで必死になっていたのである。
【綱渡りの天元】
この戦いは天元様にとっても最大の難関だったのではなかろうか。
何しろ、「九十九を支援して羂索を倒そうとするフリをしながら、その実、羂索に九十九を始末させる」ことを、「九十九にも羂索にも決して気取られぬように」やってのけなければならなかったのだから。
羂索が九十九を叩き潰す前に領域を解体してしまってはマズい。
解体は間に合わぬと九十九に判断されて、領域展開されるのもマズい。
絶妙な力加減が要求されたはずだ。
その細い綱を、天元様は渡り切った。
邪魔な九十九由基は死に、自身の計画の「駒」である羂索は生き残った。
なんら怪しまれることもないまま。
【九十九を葬る理由】
「元星漿体だった」こと以外には、九十九と天元様に具体的にどんな因縁があったのかまだ描かれていないので何とも言えないが、敵対はせずとも天元様にあからさまな不信感を抱き、その気になれば世界を滅ぼせる力を持った女なのである。
天元様が何らかの計画を実行中なのだとすれば、これだけでも消しておきたいと考える理由としては十分かもしれない。
地球消滅爆弾を常に抱えてるようなもんだからね。
【誘導された人選】
今から考えれば、この人選がもう露骨だったよね。
当然、天元様と因縁のある九十九はこの場に残ろうとするだろう。
そして、この非常時に特級を2人も護衛に置くわけにはいかぬから、自然に乙骨は外の任務に回ることになる。
残るは脹相というわけだ。
彼ら自身に選択させたように見せかけながら、その実、九十九と大して脅威にならない者が「護衛」となるよう誘導する。
「領域展開で押し合う」選択肢を九十九が自然と放棄させられたように、弁舌をもって他者を操る力こそが、天元様の最も恐ろしい能力なのかもしれない。