五老星も一枚岩じゃないってことなんだと思う。
※以下、1113話までのネタバレ注意
【避難船への砲撃】
第1113話にて、サターン聖はロビンが生きていることを指してサカズキ元帥を「ぬるい男」と評した。
実際にはロビンの逃亡は全面的に青雉のせいであり、赤犬が責められる謂れは全く無いものの、五老星はその事実を知らないわけだが、それにしてもサターン聖のこの台詞はおかしい。
そもそも、避難船を用意して考古学者の逃亡を許しかねない作戦にしたのは政府側であり、サカズキ中将(当時)はそれに逆らった側の人間なのである。
彼を責めるくらいなら、最初から避難船など用意せず、エッグヘッドのようにオハラの住民を皆殺しにする作戦を命じておけばいいはずだ。
そう考えてふと思い至った。
あるいは、赤犬が避難船に砲撃したのは、サターン聖の命令だったのではないか? と。
つまり、オハラの処遇についての五老星の合議において、サターン聖は空白の100年について知る者を1人も逃がさない為に、「考古学者のみならず、オハラの全住民の抹殺」を主張した。
しかし、他の五老星はそれを「やり過ぎ」として却下し、結局、一般市民は避難船にて逃がすことが政府の正式な方針となった。
海兵ではなくサイファーポールに避難を呼びかける「義務」が課されていることからも、一般市民の避難が五老星の正式な意向なのは間違いない。
「海軍の士気低下を考慮し、表向きには市民を避難させるフリをして、裏で赤犬に始末させたのではないか?」という見方もあるが、エッグヘッドで堂々と「何か知っている『恐れがある』」という理由で何の罪も無い職員の殺害を命じている以上、それは考え難いだろう。
【サターン聖の独断】
だが、サターン聖はその「閣議決定」に納得しなかった。
そこで彼は、自身のやり方に賛同しそうなサカズキ中将(当時)に非公式に接触し、避難船を砲撃することを命じた。
「徹底的な正義」を信念とするサカズキもまた、政府の中途半端な方針に不満を抱いており、その命令に従ったわけである。
実行してしまいさえすれば、赤犬はサターン聖の命令であることを示唆して軍紀違反の罪を回避できるし、サターン聖も『あくまで現場判断』と主張できる。
他の五老星としても、大将候補である強大な戦力を敵に回してまでオハラの市民の命に拘りがあるわけでもない。
サターン聖の独断を事後的に受け入れて、全てを揉み消す道を選ぶだろう。
【赤犬の正義】
考えてみれば、サカズキが「上」からの命令に逆らったのはオハラの一件だけだった。
あれだけ白ひげ海賊団の徹底掃討を叫んでいたにも関わらず、頂上戦争でのセンゴク元帥の終戦の判断にも大人しく従っているし、ドフラミンゴ七武海辞任の一件や七武海制度撤廃の際にも、不満を漏らしながらも命令に逆らったりはしていない。
サカズキという人物は「徹底的な正義」を胸に抱きながらも、政府と軍の秩序を重視する「穏健派」でもあるのだ。
「五老星の指示があったからこそ、オハラの避難船砲撃に踏み切った」というのは、これまでの彼の言動を見ると、独断で砲撃したと考えるよりもむしろ納得できる話だ。
【閣内不一致】
五老星の意見が必ずしも常に一致するわけではないことは、ワノ国編でも描かれていた。
カイドウの怒りを買ってまでルフィを葬ることについて、ウォーキュリー聖とマーズ聖はルフィが「ニカ」の覚醒者となることに否定的であったが、ピーター聖を筆頭に、ナス寿郎聖とサターン聖はルフィの覚醒を警戒していた。
この場合、五老星の中で2人が反対する案を、3人の賛成多数で可決したことになる。
中国共産党の最高指導部である中央政治局常務委員会は、重要な事項において意見が割れた際に最後には多数決が採れるよう、5人・7人・9人など奇数で構成されている(現在では習近平が独裁者となったことで有名無実化してしまったが)。
五老星も同様であり、迅速に意思決定が下せるように、多数決が可能な五人での構成になっているのだと考えられる。
多数決で決まった方針を破ってサターン聖が避難船砲撃を指示したとすれば掟破りではあるが、一般市民避難派の五老星にしても、それで彼を糾弾する程にはオハラの市民に対する思い入れもなく、むしろ内心ではサターン聖の徹底したやり方に賛同する部分もあっただろう。
【強硬派と穏健派の五老星】
サターン聖がエッグヘッドから脱出した一般研究員や職員の抹殺を命じたり、人間を虫と思えと語った際に、「オハラの時とは随分対応が違うな」と思ったのだが、五老星でも人命に対して意見に隔たりがあるとすれば、納得できる。
サターン聖を五老星における「極右」ないし「強硬派」だとすれば、ルルシア王国に多くの人がいることを理由にイム様の命令を躊躇したウォーキュリー聖は「穏健派」に数えられるのだろう。
そして、オハラから一般市民を避難させることが正式決定されたこと見ると、「穏健派」が五老星の多数派と考えられる。
五老星がエッグヘッドに勢ぞろいしてから1113話までの言動でも、サターン聖だけ妙に悪辣なことを言っているし、彼は五老星でも特に「冷酷」として描かれていることが分かる。
とはいえ、そのサターン聖もオハラの考古学者達の抹殺を命じる際にはシルエットでも分かるくらいに苦渋の表情を浮かべているので、根っからの悪人というよりは、「為政者として冷酷であろうとしている」ように思えてならない。
自身も科学者だというサターン聖は、本音では優秀な学者達を殺したくなどないのだろう。
……だからこそ、逆に無能な一般市民は死んでもいいと思ってるのかもしれないが。