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※以下、ネタバレ注意
==== 伏黒恵や五条悟からクズだ何だと罵られてきた伏黒父。
そんな彼が過去編にて満を持して登場したわけであるが、初登場の場面が「金で雇われて星漿体の少女を殺そうとしている」というものだった。
当然のことながら、読者は皆、彼はこれまで語られてきた通りの、ゴミみたいな父親だと認識したことだろう。
しかしながら、私は気付いてしまった。
伏黒父は実は、それほど悪い親ではないのでは、と。
きっかけは、伏黒父が「蒸発」した年を数えていた時のことである。
過去編である「懐玉」は、現在28歳の五条先生が高専2年生の頃の話だから、現代から12、3年ほど前の出来事だ。
そして、この頃には既に伏黒父は伏黒夫人と再婚して、婿に入ったことが分かっている。
一方、伏黒夫妻が蒸発したのは、恵が小学校一年生の頃だから、現代からおよそ10年前のことだ。
つまり、2年程度は伏黒夫妻は津美紀さんや恵と同居して普通に生活していた、あるいは同居はしていなくても、子供達も父親の所在を知っていたことになるのである。
2年以上もの間、親としての役目をそれなりに果たしてきた伏黒夫妻が、どうして突然「蒸発」してしまったのか?
本当に恵を金で禪院家に売ったのだとしたら、別に「蒸発」などする必要は無いだろう。
取引は既に成立しているのだ。コソコソと姿を隠さずとも、大金で豪華に暮らせば良い。
そこで、発想の転換が起きた。
すなわち、伏黒夫妻は「蒸発」したのではない。
既に殺されてしまったのではないか、と。
伏黒父は実は、禪院家に対して息子を渡すまいと、頑なに拒んでいたのではないだろうか。
だが、禪院家は恵の才能を見抜いており、どうしても彼を手に入れようとした。
そして、業を煮やした禪院家が、とうとう伏黒夫妻を消すことを選び、ムリヤリ恵の親権を得ようと試みたのだとすれば。
2年も経って急に夫妻が姿を消した理由としては、「蒸発」などより遥かに筋が通るのだ。
「伏黒父は恵の性別すら知らなかったはずではないか」と思われた読者も多いかもしれない。
かく言う私も、(忘れてたけど)当時は伏黒父は、子供がまだ妻の腹の中にいる時に、妻子を捨てたのだと思い込んでいた。
しかし、恵の台詞をよくよく見れば、伏黒父が息子の性別を知らなかったのは、あくまでも名前を付ける段階での話だと分かる。
そもそも、後に伏黒夫人と再婚(恵の母親と籍を入れていたならの話だが)する際には、連れ子として恵を引き合わせているわけであり、しかも、禪院家に対する交渉材料としても使っていたのだから、息子の性別すら知らなかったというのはあり得ない事なのだ。
そして、更に言うと、「父親が性別も知らぬまま『恵』という名前を付けた」というのは、今のところは伏黒自身がそう認識しているというだけなのである。
たしかに、「恵」という名前は通常、女の子に付けられるものだ。
しかし、一方で、その名前は決して「悪い名」などではない。
無論、解らない。本当のところは今はまだ解らない。
もしかしたら、腹の中の子を娘だと思い、好きなAV女優の名前でも付けただけ。
極端に言えばそういう見方すら出来る。だが。
本当にお腹の中の子供に興味の無い人間が、そもそも名前など付けるものか?
仮に名付けたとして、「恵」という名前を何の気も無しに選ぶものだろうか?
かつて、『なるたる』という漫画があった。
主人公の「シイナ(秕)」という少女は、自身の名が「中身が無い実」「実ることのない種子」という意味を持つことから、その名をつけた母親から愛されていないと思い込み、自身の名前を嫌っていた。
だが、実際にはそうでは無かったのだ。
伏黒恵も同じなのではないか?
「恵」という名を親の愛情の欠如と受け止めているのは本人だけで、そこには何か重要な意味が込められているのではないだろうか。
少なくとも、「子供を商品としか考えていない父親が『恵』という名を与え、再婚後は2年も経ってから急に妻と共に姿を消した」などという話などより、よほど信憑性があるように思う。
……と、ここで、更なる可能性に私は思い至ってしまった。
そもそも、この伏黒父の「クズ親」っぷりを恵に語って聞かせたのは一体誰であったか?
そう、他でもない、五条悟である。
上述のように、私は当初、伏黒夫妻を殺したのは禪院家だと考えていた。
だが。
ひょっとして、五条先生こそが、伏黒夫妻を消した殺人者なのではないのか?
伏黒父が、我が子を呪術師にはすまいと、協会から引き離して、普通の人間としての暮らしを送らせていたのだとしたら。
強い呪術師を育てることに最大の執念を燃やす五条悟にとっては、「クソ親が息子の才能を潰して飼い殺しにしている」と写ったことだろう。
更に、今回の過去編である。
この事件が五条と夏油の生き方を、決定的に変えてしまうものとなることは想像に難くない。
そして、そんな事件に伏黒父は、敵方である「盤星教」に雇われた傭兵として絡んでいるのである。
彼が金の為に汚い仕事も請け負う人間であったことに間違いはないだろう。
おそらく、「恵を禪院家への取引材料にした」というのは、五条先生の妄想なのだと思われる。
しかも、その妄想を恵に教え込んだ(きっと、息子から見ても決して「良い父親」ではなかったのだろう)。
五条悟が、思い込みで物事を断言する性質の人間であることは、宿儺の件で既に明らかだ。
五条悟は思い込んだ。
盤星教に雇われるクズみたいな男が、なぜか才能あふれる息子の恵を手放そうとしない。
そうだ、コイツはきっと禪院家に対する取引材料として、息子を使おうとしているに『違いない』。
許せない。
才能のある呪術師の未来を、大人の身勝手で潰そうなど。
だから、殺そう。
恵は自分が育てよう。
こんなクズな父親から解放し、「凡俗」から引き揚げて、存分に才能を活かせる呪術師にしてあげるのだ。
それが、伏黒恵にとって、一番の幸せに決まっている。
……正直、あり得そうに思う。
思うが、しかし。五条悟ラスボス説を唱え続けてきた私にも、俄かには信じがたい。さすがにこれは無いだろう。
とはいえ、一方で、五条悟ならばあり得る。
そう考える自分も、たしかに存在するのである。