良い機会なので、改めてエレンの真の目的と、エレンがヒストリアを妊娠させた説を語るなど。
この暗い表情から考えても、ヒストリアは全てを知っているんだろうな。
【進撃の巨人22巻】エレンはアルミンよりもヒストリアが大事? で書いたように、エレンは以前からヒストリアを特別扱いしている節があるし。
※以下、ネタバレ注意
==== 【鎧の巨人】
ライナーは、殺戮の罪を犯したエレンが自分と同じく「裁かれたがっている」と考え、エレンを楽にしてやろうとしているが、彼自身が未だ自殺を留まっているのと同じ理由でエレンが戦っているかもしれないとは考えないのだろうか。
すなわち、子供達の未来の為である。
もっとも、ライナーは真っ暗な未来から子供達を救い出す方法を見つけられずにいるわけであるが、エレンは明確にその道筋を見ているからこそ、今のように迷いなく行動できているのであろう。
また、パラディ島のことを何も知らないまま殺戮に手を染めてきたライナーとは違い、エレンは自分自身の目で見た上で、虐殺の道を選んだ。
その覚悟には当然、大きな違いがある。
ライナーはエレンに一種の仲間意識を抱くようになっているようだけれど、果たして己とエレンの差に気が付いた時、どういう行動に出るか読めないな。
【マガト元帥】
マーレ側の思惑としては、エレンという世界の脅威を倒した英雄国の名誉を得つつ、始祖の巨人の脅威で諸国に睨みを効かせて覇権国家の地位を維持しながら科学技術に注力していくという路線に変わりは無さそうだ。
マガト元帥はそれなりにエルディア人に対して肩入れしているようだから、「エルディア帝国を滅ぼしたのはフリッツ王」という真相が公開されたことと、今回のエレン討伐の成功によって、エルディア人の地位向上に着手するつもりなんだろう。
ピーク程の人物が(マーレに住む)エルディア人の命運を賭けるに値するとは言えそうだ。
もっとも、パラディ島のエルディア人の安全は、彼女の中では度外視されているだろうけど。
【エレンの計画】
さて、ある意味今更ではあるが、エレンがジークに心から協力していたわけではないことが明かされた。
では、彼の真の目的は一体何なのか。
なぜ、仲間達を遠ざけ、一人で行動を起こしたのか。
エレンの真の目的についてでも書いたように、端的に言えばエレンの目的は「ゼロ・レイクエム」なのだろう。
つまり、悪のエレンがエルディア王国に倒されたという構図にすることで、世界に見せつけた『地鳴らし』の力をエルディア王国政府に引き継がせつつ、世界との対話の道筋を開こうとしているわけだ。
その場合、当然、自分と行動を共にしたイェーガー派は、逆賊として裁かれることになる恐れが強い。
エレンはミカサやアルミンを始めとする仲間達を、巻き込むまいとして遠ざけたのである。
【共通の敵】
かつて、エレンはピクシス司令が持ち出した「共通の敵が出来ることで人類はまとまる」という小噺を「欠伸が出ます」と一蹴した。
一見すると、今のエレンはかつての自分が歯牙にも掛けなかった理想を追い求めているように思われるかもしれない。
しかしながら、実際には上記の小噺とエレンの計画は全く異質なものだ。
まず、エレンの計画では『地鳴らし』という圧倒的な武力で、他国を圧することが前提になっている。
その上で、講和の糸口を作ろうとしているに過ぎない。
単に共通の敵を作って人類がまとまるなどという理想論とはまるで違う。
他国より優れた軍事力を持って初めて、話し合いのテーブルに付けるという、まさにエレンらしい考え方で実行された計画だと言えよう。
【動機】
そもそも、なぜエレンはジークの安楽死計画を利用することを決めたのか。
イェレナ達、反マーレ派義勇兵がパラディ島に上陸した当初、エレンは彼らの地鳴らし発動計画に乗り気だった。
その後、一転してジークの計画に反発するようになったわけだが、それは偏にヒストリアの為であった。
彼女が獣の巨人の継承者となった挙句、その力を継ぐ子を産むことを強要される。
それが許せなかったからこそ、エレンは会議の場で声を荒げて計画への反対を口にし、ヒストリアも彼の言葉に涙した。
となれば、彼が安楽死計画の利用したのは、それによりヒストリアの安全が確保されると判断したからなのは間違いない。
ここで思い出して頂きたいのだが、ヒストリアが獣の巨人を継承しなければならないとされたのは、『地鳴らし』がその一部の力しか世界に見せない予定だったからだ。
逆に言えば、『地鳴らし』を大幅に解放することで、その事態は避けられる。
各国の軍事力、国力に徹底的な打撃を与える。
それにより、必ずしも『地鳴らし』を即時発動できる状態にせずとも(つまり、王家以外の人間が獣の巨人を継承している状態)、他国を委縮させることが可能になるのだ。
国際社会がとてもパラディ島を侵略できるような状況でなくなれば、地鳴らしで脅す場面も少なくて済む。
「即時ではないが、その気になれば発動できる」という形で、十分に抑止力としての役目は果たされるわけである。
ヒストリアの子供が「天命を全うするまで」をエルディア人の寿命だとされていた以上、ジークが安楽死計画の中で描いていた『地鳴らし』の扱いについても、上記と同様のものだろう。
【我が子】
とはいえ、これだけではエレンが仲間に黙って単独で行動するようになった動機としては十分ではない。
アルミン達は殺戮に消極的だったとはいえ、ヒストリアを犠牲にしたくない想いは同じはずだ。
仲間達にジークの計画のことを相談しても良さそうなものだが、エレンはそうしなかった。
そこには何か、もっと差し迫った理由が必要になってくる。
それこそが、ヒストリアのお腹の子供というわけだ。
憲兵団上層部(というかローグ)は、ヒストリアが子供をもうけたのはイェレナに唆されたからだと考えていたが、事実はそうではなかった。
彼女のお腹にいるのはエレンとの間の子供であり、おそらくその子は、イェレナがエレンに安楽死計画のことを伝える前から既にヒストリアの中に宿っていたのだろう。
そう考えれば、全ての筋が繋がってくる。
仲間達に安楽死計画を利用する策を相談したとして、もし、万が一『地鳴らし』による大規模殺戮が却下されてしまったら、最終的に王族である我が子が巨人を継承せざるを得なくなるのだ。
例え、仲間達がそれを言い出さなかったとしても、他に代案が無い以上、憲兵団やザックレー総統、ピクシス司令は王子を生贄にする選択をしたはずだ。
それだけは絶対に、阻止しなければならなかった。
だからこそエレンは、ジークの計画に乗って殺戮を行うことを強行し、仲間達を遠ざけつつ、全ての悪を背負って消える道を選んだ。
全てはエルディア王国のため。
そして、我が子と妻ヒストリアを生きながらせる為の、覚悟だった。
【対比】
ヒストリアのお腹の子供の父親がエレンだと考えれば、ここに皮肉とも言える兄弟、そして父子の美しい対比が見えてくるだろう。
一つは反出生主義を掲げる、兄ジークとの対比。
エルディア人の子供を生まれさせない為に戦う兄と、生まれてくる子供の為に戦う弟という、明確な対立構造が生まれる。
次に、父グリシャとの対比。
グリシャは戦士候補生として送り込んだジークのことはもちろん、その反省を踏まえた後のエレンのことまでも巨人に変えることを選んだ。
そこにあったのは、我が子を特別な人間だと思い込んだ一種の傲りと、エルディア復権の為ならば我が子すら捧げようという闘士としての覚悟だった。
だが、エレンはそうではなかった。
彼は我が子を巨人と化し、寿命を縮めることを決して受け入れず、その為ならば殺戮の道すら辞さなかった。
我が子に対する愛の向け方の大きな違い。
エレンがグリシャとは全く違う父親として育ったのは、偏に母親であるカルラの人格の賜物だろう。
【余談】
エレンがアルミンにもミカサにも相談せず、今では嫌われようとすらしているのは、ヒストリアとの関係のせいもあるかもしれない。
少年期のエレンは、ミカサの家族愛を超えた異性としての恋愛感情に全く無頓着だったが、成長した今は気が付いていても全くおかしくないし、酷い男を演じることで彼女の想いを断ち切ろうとしたとも考えられる。