灼眼のシャナIII -Final- 第4話 「再会と、邂逅と」
【祭礼の蛇】
紅世における創造神。
紅世における「神」とは、世界法則の体現者のことです。
そして祭礼の蛇は、神の一柱として「造化と確定」という権能を持っています。
対して、もう一柱の神である〝天壌の劫火〟アラストールは天罰神として、「審判と断罪」という権能を司っています。
彼が時に『紅世真正の魔神』と呼ばれるのはその為です。
こう見えてアラストール本来の力は圧倒的で、彼が力を思うままに振るえるならば、対等な存在である祭礼の蛇以外の〝紅世の徒〟は相手になりません。
しかし、この世において自身の力を振るうためには『存在の力』を食らわねばならないわけで、それでは意味がないので、フレイムヘイズとして契約し、人間に力を与えている状態です。
この辺の話は『大戦』を描いた原作10巻に描かれているんですけど、アニメ化されていないですね。
10巻は独立した外伝なので、この10巻だけでもお読みになることをお勧めします。
これからの展開の伏線が多くちりばめられているので、理解の手助けになるかと。
まあ、本来なら原作全部読んでいただきたいところですが。
ちなみに、今週で16巻が終わりました。
外伝の15巻はアニメでやるのかなあ。
【久遠の陥穽】
かつて、この世に渡る方法が確立されてから、多くの紅世の徒がこの世に押し寄せてきました。
その中に、祭礼の蛇と三人の眷属も混じっていました。
彼は「造化と確立」という、踏みだし見いだす力をこそ司っていたからです。
そして、新たなものを流れを作り出す権能を持つ祭礼の蛇は、同胞たちに求められるまま多くのものを与え続け、約3000年前、ついにはこの世の在り様にまで手を出します。
それに対して立ち上がった太古のフレイムヘイズ達による「久遠の陥穽」という不帰の秘宝により、紅世とこの世の狭間に放逐され、二度と戻ってこられないはずでした。
残された三柱臣(トリニティ)は、3000年かけて[仮装舞踏会(バル・マスケ)]の規模を大きくしつつ、主の帰還手段と、果たされなかった「大命」の成就について模索し続けてきたわけですね。
ちなみに、この久遠の陥穽には『儀装の駆り手』カムシン・ネヴハーウも参加していました。
アラストールがまだこの世にフレイムヘイズとして渡り来る前のことです。
数百年生きたフレイムヘイズにとってもこの話ははるか昔の伝説のようなもので、マージョリーが「お伽噺の神様」と言ったのはその為です。
【マージョリー・ドー】
原作でもアニメと同じくぼかして描かれていましたが、マージョリーさんは元はどこかの姫君だったのが、敗北し、逃亡する中で部下達に娼館に売られたという人生を送ったようです。
姫君だった時代は能の無い父を補佐し、敵に攻め込まれた時は父を逃す為に籠城し、その父が逃亡中に殺され自身も捕虜になった時には、兵士達を家に帰す為に蜂起、脱走し、あげくわずかな金を引き替えに家臣達に娼館に売られてしまいました。
そして、娼婦になってからも、他の娼婦に頼られ、世話をし続けていました。
いつしか、そんな頼られ、利用されるだけの人生に嫌気が差し、館も館の者達も全て壊し尽くしたいという願望を抱くようになりました。
ところが、突如現れた銀の炎を持つ鎧によって、自身が壊したかったものを全て壊され、あまつさえその〝銀〟は嘲笑を浮かべてすらいました。
「全てを壊す」という彼女に残された最後のものすら奪われたマージョリーは、憎しみからマルコシアスと契約してフレイムヘイズとなり、以降は何百年も〝銀〟を追い続けていました。
そんな彼女に残された唯一にして全てを、悠二の言葉によって今度こそ完全に奪われたわけですね。
すなわち、銀などいない。殺すべき敵などいない。あの鎧は、マージョリーのやりたかったことを代行したに過ぎない。
彼女の数百年に渡るこれまでの人生は、何の意味もなかった、と。
自身のアイデンティティを奪われて、頼られるだけだった人生を終わりにしようとしていた彼女の耳に、田中と吉田さんの言葉が届きました。
「佐藤はまだ、マージョリーさんに何もしてあげていない」、と。
【銀】
では、あの銀と呼ばれていた鎧が何かというと、ダンタリオン教授が作った『暴君』という装置です。
正確には『暴君Ⅱ』ですが。
2話でのベルペオルの「なぜ盟主は代行体として〝暴君〟ではなく、このミステスを~」という台詞に出てくる暴君は、『暴君Ⅰ』という零時迷子が変質したもので、2期で悠二の体から出てきた鎧がこれですね。
人間の強烈な感情を感知し、その場所に現れ、その人間の欲求や願望を代行することによって、感情の在りようを写し取る装置が暴君Ⅱであり、マージョリーの前に現れたのもこいつです。
館の破壊も、嘲笑したのも、全て彼女の願望を代行したにすぎません。
では、なぜそんな装置を作ったのかといえば、これを説明するのは容易ではないです。
かなりややこしい話なので、ここではざっくりと書きます。詳しい内容は原作15巻のプロローグ参照。
これに関してはアニメスタッフに同情。アニメじゃ説明しきれないです。
というわけでざっくりと書くと、久遠の陥穽によって「両界の狭間」に放逐された祭礼の蛇の意思を、断片的に神の巫女たるヘカテーが受け取り、そこからバルマスケは、盟主の意思を受信し、盟主の思うがままに動かせる「代行体」の作成にとりかかりました。
それが暴君Ⅰですね。
その核となる、盟主の意思を再現する為の「仮想意思総体」を構築する為に、暴君Ⅱによって長きにわたり多くの人間の多様な感情を採取させ続けていたのです。
「仮想意思総体」が完成したことで、悠二の中の零時迷子に祭礼の蛇の意思が表出し、悠二と同一化したわけですね。
全ては盟主の代行体(現在は坂井悠二)を作り出す為の作業であり、マージョリーは憎悪という強い感情を持ったばかりに、それに巻き込まれた形になります。
【玻璃壇】
アニメでは語られたかどうか分かりませんが、〝狩人〟フリアグネ(最初の敵)が所持していて、今ではフレイムヘイズ達が何度も便利に使ってきた玻璃壇は、元々は祭礼の蛇が作り出したものです。
原作では、最初にこの玻璃壇を田中と佐藤が使うときにマージョリーとマルコシアスが説明していたと思いますが、アニメではどうだったでしょう。
まあこの頃から既に、祭礼の蛇という名前と、そいつが放逐されたという話は伏線として出ていたんですね。
この玻璃壇を悠二が持ち去る際に、「良いではないか。元来が余の物なのだ」と言ったのは、そういう経緯からの台詞です。
悠二がシャナを連れ去ったことで、吉田さんにも自分が選ばれなかったことが伝わったことになります。
なぜ彼がシャナを連れ去ったのかは、近いうちに語られるでしょう。
そういえば、原作では電車ですれ違った外界宿の連絡員が佐藤だったという話が、悠二とマージョリーの間で交わされるのですが、アニメではそもそも連絡員に気がつく描写がカットだったので、その会話もありませんでした。
ちなみに、田中と吉田さんに渡されていた栞はフレイムヘイズ達の声だけ聞こえるものです。
なので悠二の声は聞こえていません。フレイムヘイズ達の言葉だけから会話を何とか掴んでいました。
マージョリーが壊れかけた時に状況を把握できていなかったのもその為です。
【僕が、君を守る】
これもアニメで描かれたかどうかは分かりませんが、ヴィルヘムナ戦後(だから1期かな。原作では9巻)にアラストールと悠二が2人で会話したなかで言われていたことです。
ヴィルヘルミナに殺されかけて、シャナに助けられ、無力感に悔し涙を流した後のことですね。
ただのミステスに過ぎなかった悠二が思わず口にした「シャナを守る」という大きすぎる望みを、アラストールも言った悠二自身も2人で大笑いしたというシーンです。
今週の悠二の「僕が、君を守る」という言葉を聞いた時、アラストールは、かつての悠二の望みが最悪な形で結実したことに絶句しました。
しかし、アニメの悠二はへたれな描かれ方だったから、アニメ組は今の悠二に違和感が強いだろうなあ。
原作だと元々こういう性格なんで祭礼の蛇状態でもそれほど違和感はなかったんですが。
というかそれに加えて、悠二の喋り方が原作の印象よりも冷たくしすぎだと思いました。
もっと今までの会話のように(特に田中と吉田さんには)接していたはずなんですけどね。