要するに中世の感覚なんだと思う、明無良くんは。
※以下、第116話までのネタバレ注意
剣聖こと曽我明無良が伯理を殺すと言い出した時、私は正直ちょっとガッカリしていた。
「ああ~……明無良の側に理があり過ぎるから、こうやって極端なことを言わせて否定してくのね……まあ、しょうがないか」
と、こう感じたわけである。
せっかく、毘灼の側に納得できる「大義」があったことが明かされて面白くなってきたのに、やや安易な方向に走ったな……とも思ったくらいだ。
だが、今週の過去編を読んで合点がいった。
かつて妖術師を治めた曽我家の末裔たる明無良からすると、「漣家」そのものが国家に叛いた許されざる逆賊であり、その一族郎党は根絶やしにされて当然、という価値観なのだろう。
そこに伯理の人格を問う余地は無く、彼が漣家の人間である以上、殺す以外の選択肢を持っていないわけだ。
過去編での妖術師の活動は「市井に被害の出ない水面下」に留められていたが、現代の漣家の楽座市は何の罪も無い子供達の売買を行ったりと明らかに市井に被害が出していた。
これは、斉廷戦争を経て曽我家を頂点とした妖術師の秩序が崩壊したことで、「市井に被害を出すべからず」の約定が守られなくなった事を意味する。
曽我家の重石があった時代から楽座市で人が競りに出ることはあったとしても、対象は裏社会の人間だけに限定されていたのだろう。
先代までの楽座市はもっと小規模かつ穏健な内容だったと考えられる。
ところが、曽我家体制の崩壊によって歯止めを失った京羅が増長し、何の罪も無いカタギを「出品」することも厭わなくなったわけだ。
明無良にとってこれら悪徳妖術師一族の暴挙は、「裏切り」であり、「反逆」である。
失われた曽我家の権威を取り戻し、再び日本の妖術師に秩序を築く為にも、見せしめとしてこれら謀叛人の一族は徹底的に潰す必要があると決意したのであろう。
政府に属さぬ妖術師一族の頂点に立ち、その秩序を保ってきた曽我家の末裔としての誇りと使命感が、「漣家の一族というだけで当人の人格とは無関係に粛清する」という過激とも言える行動に剣聖を動かしたのである。
そりゃあ、千鉱と話が合うはずがない。
しかしこうなると、どこの馬の骨とも知れない幽が妖刀を使って悪党を殺しまわるよりも、「かつて妖術師を治めた名門曽我家の末裔が、再び国家の為に妖術師を糾合すべく悪行に走った逆賊を討伐する」といった物語が作れて支持を得られやすいだろうから、長官のように幽という個人を崇拝している訳ではない人間からしたら万々歳の結果だろうな。