ルフィに夢を託しながら、ルフィの夢を阻もうとしているんだと思う。
【シャンクスと世界政府の協力】
第1134話のラストに登場した人物は、シャンクスそっくりな兄弟などではなく、シャンクス本人だと書いた。
考えてみれば当然の話だが、生まれも育ちも天竜人のはずのシャンクスの兄弟が、無精ひげまで海賊に落ちぶれた身内の容姿に似せるはずがない。
つまり、レヴェリー開催中に五老星と密かに会談していた通り、シャンクスは裏では世界政府と協力関係にあるわけだ。
【秩序派】
なぜシャンクスが世界政府に協力するのか?
答えは一つしかあるまい。
彼は現在の世界の秩序を守るべきだと考えているのである。
もとより彼は、海の均衡を保つため、精力的に動き回っていた。
白ひげと接触してエースに黒ひげを負わせるのを止めさせようとし、開戦が止められぬと知れば、漁夫の利を得ようとした百獣海賊団を牽制し、最後には海軍・白ひげ海賊団の無駄な損耗を防ぐべく頂上戦争の幕を引いた。
ただ、自由気ままに振舞う海賊ではない。
シャンクスは海の秩序の維持のために立ち回っているのだ。
【夢を見ず、夢に懸けた】
そんな馬鹿な、ルフィの“夢の果て”を聞いて涙を流し、彼の作る新時代に懸けたシャンクスが現状維持など望むはず無い。
そう思った読者も多いことだろう。
だが、これは逆に言えば、ルフィの“夢の果て”であり、ロジャーの語った“あの言葉”を、シャンクス自身は実現しようとはしなかったということだ。
四皇の地位に登り詰めても、彼はロジャーの跡を継ごうとはしなかった。
いや、「できなかった」のだろう。
ワンピースを次に誰かが見つけ、それが世に出た際には世界を二分する巨大な戦いが起きることは、白ひげと光月おでんの口から語られている。
当然、多くの犠牲が出るだろう。
戦争そのものによる死者だけでなく、曲がりなりにも世界の治安を維持してきた世界政府の治世が不安定化すれば、悪党の跋扈による民間人の被害も甚大なものになるのは避けられない。
誰かがワンピースを見つければ、多くの人々が不幸になる。
シャンクスはロジャーとルフィの“夢の果て”に強く惹かれ、達成されることを望みながらも、その正しさを信じ切れなかったのである。
だからロジャーの言葉の実現、新時代を、ゴア王国で出会った少年ルフィに託した。
【最後の壁】
一度はラフテルを目指さないと決め、そのせいでバギーと袂を別ったシャンクス。
そんな彼がなぜ今更、このタイミングでワンピースを奪るべく動き出したのか。
ルフィが四皇の一角を倒し、ワンピースまでもうあと少しの所まで来たからとしか考えられない。
彼は本気で、ワンピースの奪い合いを麦わらの一味と繰り広げるつもりなのである。
世界が大戦へと発展する事態を防ぐために。
この今の時代の秩序の守り手、そして麦わらのルフィの海賊王への道を阻む最後の壁として。
その果てに、ルフィが自分を倒してくれる未来を、夢に見ながら。
【余談】
この記事を書いていて今更ながら思ったのだが、近海の主を腕を食い千切られる直前、シャンクスは笑っているんだよね。
ルフィを守る事に必死だったわけではなく、余裕があったことになる。
つまりシャンクスは、意図的に覇気をまとわずに、わざと腕を差し出したのかもしれない。
ルフィに海の過酷さを教えた上で、自分を追ってこさせるために。