そして全てに絶望した。
【善人殺しの禁忌】
↑の記事の中で、「胎界主殺しという『禁忌』は、帝王が定めた魔界の規則だった」と書いたが、同様に悪魔の禁忌とされている「地獄の扉を開いていない人間を殺すこと」もまた、災いが降りかかる法則ではなく、魔界の法で禁じられたものなのではないだろうか。
なんとなれば、地獄は帝王が創った胎界だからである。
地獄に繋がる扉を悪人が開くように設定し、悪魔達はその悪人しか殺せないようになっている。
帝王がそう定めたと考えるのが自然だろう。
彼は悪魔が善良な人間を殺さないようにしたのである。
【地獄の意味】
帝王によって地獄が作られたということは、それまで死後の人間の「こころ」は全員、アトン=イヴが支配する天界に送られていたことになる(リリスの神獣であるはずの人間が何故そうなったかは不明だが)。
それをわざわざ帝王が、悪人のみ地獄へ送られる仕組みに世界を書き換えたのである。
一体なぜそんなことをしたのか?
サタナキア六王陛下の口からこの真相を知った当初、私は「地獄と魔界を繋げることで、人間の『たましい』の力を横流しし、魔界を拡張する為」と解釈していた。
しかしながら、本当にそれが目的なら地獄を触媒にする必要があるのか疑問だし、そもそも得られる「たましい」を悪人のものに限定する必要もない。
帝王の目的は、「悪人を死後、地獄に堕とすこと」そのものにあったのではないだろうか。
全ての人間が死後、同じ場所に行くのではなく、悪人だけは地獄で苦しむことになる。
そんな世界を創った理由は、一つしか考えられない。
帝王は人間に「地獄に堕ちたくないから道を外れないようにしよう」と思わせたかったのである。
【人間の導き手】
四大魔王の中で帝王だけは司神リリスの四大神獣だと私は考えている。
だとすると、同じくリリスの神獣である人間は帝王にとっては「弟妹」ということになる。
年の離れた弟妹が「たましい」を持ちながらも一生を無駄にし、生成世界を醜悪なものに変えていく姿に心を痛めた帝王は、彼らを正しく導くために、様々な方策を打ったのではないか。
地獄はその施策の一つだったと思われる。
だが、思い通りには運ばなかった。
人間は地獄を信じずに、いや地獄の実在を知っている者ですら地獄の扉を開いていき、次々に堕落していった。
帝王が何をやっても、世界は変わらなかった。
【絶望】
サタナキア六王陛下は、「さしものアイソーポスも<主流>には従うしかない」と言っていたが、これは帝王の行った数多の世界の変成も、<主流>による状態復元期で潰されていった経験からの言葉ではなかろうか。
真実はどうあれ<主流>をなんとかしない限り世界は変わらないとサタナキア六王陛下は考えており、その為にソロモンを真の胎界主にしようと画策しているのかもしれない。
人間にも当然悪魔にも絶望した帝王は、今度は妖精の国の運営に乗り出した。
どこかの黒王が人間から人外へと乗り換えたように。
しかし、その悪あがきも結局は、帝王に何も齎さなかった。
ただ徒に存在級位だけが上昇していった彼は、原典堕ちを免れるためサタナキア六王陛下によってウーティスとなり、ソロモンヘイムを徘徊することとなった。
だが、そんなサタナキア六王陛下の手からすらも逃れて彷徨い続けているのは、帝王自身がもう戻りたくないと望んでいるからなのだろう。
何をしても無意味だった、出口の無いあの場所に。