祖父が切腹させられ、黒炭家が転落した事について「そこまではいい」と妙な潔さを見せたオロチ様。
この台詞を受けて、彼の人間性を見直す意見が多く見受けられたが……。
その他の971話感想はこちら。
【責任転嫁】
私も最初は、「祖父の処刑を知らされた時も『何か罪を……』と言ってたしな」と、オロチ様に対しての同情が芽生えた。
しかしながら、よくよく考えてみると、結局オロチ様はババアの言った「権力闘争の何が罪だ!」という言葉に納得してしまっている。
しかも最終的には「光月スキヤキが生まれてきた事が悪い」とまで飛躍させるような男なのである。
没落による自身の貧乏暮らしをスキヤキ様の誕生のせいにしているのだ。
「お家の転落は仕方がない」などと本気で思っているはずがない。
【同情】
要するに今回の台詞は、自身の横暴を正当化する為の詭弁の類に過ぎない。
半天狗の言い訳と同じで、「わしは可哀想だから、国土を蹂躙しても、民を嬲り殺しても許される」と言いたいわけだ。
いや、もしかするとオロチ様は自身の行為を正当化しようとすらしていないかもしれない。
ただ単純に、おでん公を操る為、彼の同情を買う為だけに繰り出した口から出任せだった可能性すらある。
実際、おでん公には効果覿面だったのだろう。
「5年間、裸踊りをすれば作った船で国を出ていく」という言葉が嘘だと解った時にも、すぐにオロチ様には斬りかからず、カイドウを討つという方向に行ったのも、おでん公がオロチ様に同情していたからだと思われる。
元より、金を返さないオロチ様に延々と何年も貸し続けるお人よしの権化だからなあ……。
【茹で蛙】
オロチ様は実に狡猾な男だ。
第968話や第969話の感想で書いたように、おでん公が裸踊りを続けていた5年間は、彼の帰国直後よりもワノ国の経済状況は明らかに好転している。
この5年間、オロチ様は勢力を着々と拡大する一方、民草に対する搾取の手を緩め、それなりに富ませていたのだ。
そうなれば当然、ワノ国民の間では「あれ? 別にオロチ政権でも悪く無いんじゃ……?」という空気が広がることになる。
頼みの綱だった光月おでんはこの体たらく。
スキヤキ将軍の時代よりは苦しくなったとはいえ、この程度であれば我慢できる。
オロチ体制でも仕方がない。
ワノ国民の反応が妙に呑気なのは、オロチ様がおでん公に申し出た通りに、彼が裸踊りをしている間は民への搾取を抑えたことで、茹で蛙となったからだったわけだ。
自分達がじわじわと追い込まれている事を自覚できないまま、緩やかに滅びの道を歩まされる。
皮肉にも(オロチ様の計算通りに)、民を守りたいおでん公の想いが、民から「切迫感」を消してしまい、光月家に対する支持を更に失わせてしまった。
光月おでんがいる間は、生かさず殺さずの政策でワノ国民の「反黒炭オロチ」の機運を削いで行き、光月家を滅ぼした途端に、一気にワノ国全土への収奪を加速させる。
その人格はともかくとして、オロチ様が相当にキレる男なのは間違いない。
もっと早くに光月おでんと出会っていたら、ひょっとすると将軍の側近としてワノ国を切り盛りする名政治家になっていたかもしれない。