何で……何故こうなってしまったのか。
第186話『古の記憶』感想。
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【天国と地獄】
なるほどね。
縁壱には妻子がいたのか。
黒死牟が地獄に堕ちる時に縁壱が現れなかったことを多少疑問に思ったけど、彼はとっくの昔に最愛の妻と、そして生まれ来るはずだった子供と共に浄土へ行っていたんだ。
妻子を置き去りにしてまで、鬼となった兄が死ぬのを待ち続けたりはしなかった。
何とも皮肉なことだ。
あれだけ巌勝を慕っていた縁壱は妻子を得て、彼らと共に極楽へと旅立った。
一方で、縁壱への愛憎のあまり妻子を捨てた巌勝は、誰にも見送られることなく、孤独に地獄へと堕ちて行った。
家族を持ち、家族を愛し、そしてまた大義に生きた縁壱は報われて、家族を捨て、家族を憎み、己独りの為に生きた巌勝は何一つ得ることはなかったのだ。
【兄弟】
巌勝の回想では、あまりに浮世離れし過ぎているように見えて、いっそ不気味に映った縁壱も、彼の視点から幼少期が語られた事でその印象は180度変わった。
縁壱は寂しかったのだ。
彼は上手く言葉を発することが出来なかった。
大いなる剣の才能を授かってはいても、人として当たり前の会話すら幼少期は交わすことができなかった。
そのことを負い目に感じていた。
そんな弟のことを、巌勝はいつも気に掛けていた。
黒死牟となった今では、憎しみの哀しみのあまり、幼少期の事などほとんど覚えていなかったのだろう。
いや、あるいは「他意なく施す者」はいつもそうなのかもしれない。
いずれにせよ、黒死牟の回想では「可哀想だと思った」の一言で片付けられていたお弟への想いとは、常日頃から一緒に遊んでやり、父に酷く叱られた後ですら、常にお前の味方なのだと示しに向かう程の深い愛情だったのだ。
巌勝にとってきっとそれは些細な事だったのだろう。
だから詳細に覚えてはいなかった。
その優しさには、口もきけず、常に母に頼りきりの弱い弟に対する優越感もあったのは間違いない。
だから、そんな縁壱が圧倒的に自分よりも優れていることを知った時、憎しみへと変わった。
だけれども、彼がかつて弟に示した愛情は確かに本物だったはずだ。
父から疎まれ、口もきけず、弱々しく母に縋る弟を蔑むこともせず、常に気に掛けて、守ろうとした。
【どうして】
何故こうなってしまったのか……。
本当に、ただ、不運としか言いようがない。
もし、弟の剣術の才がなければ、巌勝は心優しい当主として領地を統べ、縁壱も兄に守られて穏やかに暮らすことが出来ただろう。
いや、そうでなくてもだ。
巌勝が鬼狩りの道に進んだ後も、鬼舞辻さんの誘いに乗らなければ、いずれ兄弟仲が改善していた可能性はある。
何と言っても、当時はまだ二人とも若かっただろう。
巌勝が現実を認めて、弟との関係を受け入れるようになる未来は十分考えられる。
問題は鬼としての不死だ。
人の生き方を殺人者として固定し、それを半永久的に続けさせる。
この鬼という存在そのものが無用の不幸を生み出している。
その意味でやはり、鬼舞辻無惨の存在そのものがあってはならないという炭治郎の言葉は、全面的に正しいと言えるだろう。
【余談】
縁壱の奥方を殺したのが鬼だったからまだ良かったけど、もしこれが野盗の仕業とかだったら、悪い人間を殺して回る最強の剣士が誕生してたよね。