「ミカサにあのような質問をするということは、ヒストリアを孕ませたのはエレンじゃない!」というのは、話が逆さまなのよね。
第123話『島の悪魔』の感想はこちら。
【反エレヒス派の暴論】
感想記事で私はエレンとミカサの会話について触れなかった。
それは、感想を書く段になってすっかり忘れていたというのが一番の理由ではあるが、それと同時に現時点では如何様にも解釈可能だったからでもある。
エレンが何を思って「ミカサ……お前はどうして……オレのこと気にかけてくれるんだ?」「オレは……お前の何だ?」と問いかけたのか、その真意は掴み切れない。
この問が果たしてミカサから向けられる恋心を知ってのものなのか、それとも恋愛感情を抱かれていることには気付いていないが、改めて自分達の関係性を確認しようとしただけなのか、それすらも不明なのである。
しかしながら、Twitter上で一部の反エレヒス派の面々が、「このシーンはエレンがヒストリアと恋仲ではない証拠である。なぜならエレンがミカサの好意に気付いていたのなら、その想いを無視したまま彼がヒストリアと結ばれるなどあり得ないからだ」と、冒頭でも書いたような主張しているのを見てしまい、触れぬわけにはいかないなと考えを改めた。
そこで、エレンが「ミカサの想いを把握した上でこの質問をした」という仮定をした上で、上記の反エレヒス派の主張に反論していきたい。
【きっかけ】
その論旨は至って単純である。
私が言いたいのは、エレンがミカサに恋愛感情を向けられている事に気付いたとして、そのきっかけは一体何なのか? ということだ。
四年前のエレンは、マルロに対して向けられるヒッチの好意に全く気付かない程の鈍感男だった。
言うまでも無く、ミカサのことも家族としか思っておらず、彼女が自分を異性として意識しているなどとは微塵も考えていなかった。
そんな彼が、この四年で一体何があってミカサの気持ちを汲み取ったのか。
敏感な思春期の頃には一切察することのなかった想いに、なぜ急に思い当たったのだろうか?
そう、皆さんももうお判りだろう。
エレンは愛を知ってしまったのである。
ヒストリアと恋に落ち、彼女と結ばれ、子を儲けた。
その結果、ミカサが自分のことを家族ではなく男として見ている可能性に辿り着いたのだ。
エレン自身も、他者に恋する感覚を知ったが故に。
【別の道】
さて。
ミカサはエレンの問に対して、「家族」とは違う別の答えを返していれば何かが違ったのではないかと悔やんでいる。
彼女のこの直感が正しいとして、もし仮にミカサが素直にエレンに想いを伝えていた場合、何が変わっていたのだろう。
私はエレンのこの問には、「ミカサに全てを打ち明けるかどうか」という迷いが込められていたのだと考えている。
ヒストリアがエレンの意図を事前に聞かされていたのはまず間違いない。
彼女と同様にミカサを計画に巻き込むかどうか、エレンの中に葛藤があったのではないか。
エレン・レクイエムに協力するということは、大量殺戮という許されざる大罪に加担することに他ならない。
その罪を、ミカサにも背負わせるのか。
彼女の返答次第で最終的にその判断を下そうと考えたのだろう。
これはエレンがミカサの恋愛感情を知らずに問うていた場合でも同様だ。
彼女が自分を気に掛ける理由として、「恩人だから」等を挙げていたら、自身の計画を話したのかもしれない。
無論、ミカサが計画を知れば、強硬に反対する可能性が高い。
アルミンや仲間達にエレンの真意を暴露し、計画が頓挫する恐れもある。
それも含めて、彼は最後に賭けたのではないだろうか。
ヒストリアとその子供達を巨人しさえすれば、ジークがエルディア王国に持ち掛けた偽の計画同様に、限定的な「地鳴らし」だけでひとまずの安全は確保できるのだ。
それでもエレンが大量虐殺に踏み切ったのは、ヒストリア達を犠牲にしたくないという、いわば彼の私情が理由なのである。
難民キャンプを見た時の涙を引き合いに出すまでもなく、自身の勝手な私情の為に、多くの罪なき人々を虐殺することへの躊躇がエレンの中にはあったはずだから。
【家族】
しかし、ミカサは「家族」という答えを選んだ。
それにより、エレンの中で迷いはもう消えたのだろう。
家族ならば、守らねばならない。
自分の罪を、ミカサにまで背負わせることはできない。
故にエレンは何も語らずに姿を消した。
ミカサとアルミンに辛く当たって見せた。
全てはヒストリアと我が子、そして家族と仲間達を守る為に。
大量虐殺者として歴史に汚名を遺す覚悟を決めて。