鬼滅の刃と違い、その作風が悪い方に作用していたと思う。
私はこの映画について、「ショボいフツーのおっさんがいかにして悪のカリスマであるジョーカーとなったのか」が描かれるものだと思い込んでいた。
ところが、実際に描かれた『ジョーカー』は、最後までショボいフツーのおっさんだった。
ずーーーーーーーーっと魅力的な悪役にならない。
最近も呪術廻戦の夏油に対して(この時は良い意味で)使ったばかりの表現なのだが、上弦の鬼の過去を見せられたような感覚で終わってしまった。
いや、当然ながら作品によってはそういう「とても人間的な生々しい小物」という悪役も非常に魅力的になり得るのだが、果たしてそれはジョーカーの過去としてやるべき話なのだろうか。
私がこれまでアニメや映画で見て来たジョーカーという悪役は、完全に狂っていて、理解不能で、だからこそどこか人を惹きつけるような人物像だった。
その印象があったが為に、今作の「ジョーカー」に対しては、「いや、単なる通り魔のオッサンを描いた話でよくない?」と、どうしても思ってしまう。
このジョーカーが頭のおかしい手下を操ったり、マフィアを手玉に取ったりという絵がどうしても浮かばないのよね。
だって、しょうもない普通のオッサンだもん……。
劇中で象徴として担ぎ上げられたのも単なる偶然に過ぎないし、状況を一度たりとも制御できていないから、犯罪者に利用されるところはありありと想像できるが、闇社会の首魁の一人として活躍できるとは到底考えられない。
テレビ出演で怒りをブチ撒ける所もなあ。
いや、そんな生の感情を直接的にぶつけられても……。
この時点でもう既に名をジョーカーと改めており、彼にとっては「初舞台」でもあるわけだ。
それならば、ジョークを交えて嘲笑うように社会を小馬鹿にして欲しかった、というのは当然の感想だろう。
妄想の自覚、病の養母への殺人、自分を裏切った同僚への復讐と、散々彼がジョーカーとして狂気に目覚めた事を期待させた果てのクライマックスなのに、やっている事と言えば、自身を冷遇した世間に対する文句をグチグチ喚くという体たらく。
なんだかなー。
普通のおっさんが殺人者となるまでの話で良かったんじゃないの。
『ジョーカー』という名前から想像する悪党としての期待値との落差のせいで楽しめていないわけなので、題名が『オッサン』だったらもっと評価してたと思う。