そもそも0巻で乙骨が折本里香という呪霊を生み出してるからね。
【術師と非術師】
夏油の言動を見ていれば解りやすいが、この世界において「術師」とはその成熟度とは関係なく、呪いを見ることが出来るほどの呪力を持って生まれた人間を指しており、「非術師」はそうでない普通の人間を指す言葉だ。
故に、ここで九十九由基の言う「術師」というのも、一定以上の呪力を持って生まれた人間のことを言っていると考えるべきだ。
つまり、彼女の言葉を信じるならば、術師は生まれた時から呪力が自身の中をよく廻っており、呪力の漏出が極端に少ないということになる。
【折本里香】
しかしながら、実際には九十九の言葉とは裏腹に、呪術師である乙骨憂太が折本里香に呪いをかけ、彼女を呪霊へと変貌させている(夏油がこの真相を知ったら発狂したろうな……)。
これは彼女の語った研究結果とは矛盾する現象だ。
一体これをどう理解すべきだろうか。
【知らなかった?】
九十九は術師が呪霊を生み出す例外として、呪術師自身が死後に呪霊に転ずる事をわざわざ補足している。
その他にも術師が呪霊を生み出す事例を把握していたのなら、同じく例外として挙げていなければ不自然だ。
つまり、彼女は乙骨が折本里香を作った時のような、「呪術師の強い念で呪霊が生まれる」場合もあることを知らなかったと考えるべきだろう。
九十九の研究は根本から誤っていたのだ。
【悪意?】
だが実は、もう一つ。別の真相も考えられる。
それは、九十九由基が嘘を吐いている可能性だ。
呪術師も呪霊を生み出す場合があることを知っておきながら、意図的にニセの研究結果を夏油に語って聞かせたのだとしたら。
これはこれで説明はつく。
その場合、彼女は夏油の苦悩を把握し、彼を外道に堕とす為に悪魔の誘いを仕掛けたことになるだろう。
これはそうあり得ないことでもない。
過去の呪霊操術師も夏油傑と同じ苦しみを味わいながら呪霊を取り込んでいたはずだから、記録として残っていると考えられる。
呪霊操術師に宿命づけられた苦痛を把握していれば、あとは簡単だ。
九十九は「非術師さえいなくなればお前は救われるのだ」と耳元で囁き、非術師を見下す道を選ぶ権利があるように肯定した。
「進化を促す」「鳥たちが翼を得たように」と、術師が非術師よりも進化した高位の存在であるかのような言葉をさりげなく会話に混ぜ、夏油の差別感情と優越感を刺激までしている。
そう遠くないうちに、夏油がこの誘惑に屈すると、彼女は見抜いていたのだろう。
【歪み】
九十九は知らずに誤った研究を披露したのか、それとも悪意を持って夏油を操ったのか。
例え悪意が無かったとしても、間違っている上に危険な知識を不用意に吹き込んで夏油を悪の道へと進ませた事に変わりはない。
77話の感想記事でもその可能性を書いたが、私が彼女から感じた「歪み」は、どうやらやはり意図的に描かれたものであったようだ。
もし、彼女が本当に「全人類を呪術師にする」ことを志しているとしたら、それを成し遂げる為にいずれ何かとんでもない非道を行おうとするのかもしれない。
夏油にそうしたように、一切の悪意無く。