この台詞から「今回が一花にとってのファーストキスだ」とは言えないという事を改めて解説。
【ファーストキスは】
表題の台詞に関し、ヤマカムさんが最新話の感想として『五等分の花嫁』第101話 一花さんが未来の花嫁候補から外れてしまった件 という記事を書かれていた。
以下、ヤマカムさんが「一花が未来の花嫁候補から外れてしまった」と判断された根拠を引用する。
厳密には今回のキスが初めてだとは言ってないが、話の流れ的に今キスしたのが初じめてってニュアンスです。「だから」ってこのキスがドラマの後であるのは明白。
キッズの「お母さんが見てるんだ」って台詞からドラマは現在放送中なのでしょう。撮影だってそんな前じゃない。鐘キスの相手でないということはもう確定的と言っていいのではないでしょうか
このようにヤマカムさんは「だから君が初めて」という台詞は、女同士でキスをする場面があったというドラマの説明に直接繋がるものと解釈している。
だが、これは大きな見落としをしていると言わざるを得ない。
ドラマの説明と「だから君が初めて」という台詞の間には「男の人とのキスなんて今はまだNGかな」という言葉が挟まれているからだ。
当然ながらこれは当該の百合ドラマ限定のものではない。
「今までずっとキスはNGだった」と、過去に遡及した意味合いを含む宣言である。
そして、その直後に紡がれた「だから君が初めて」という言葉は、この宣言の文脈上にあるものだ。
つまり、第102話の感想でも書いた通り、この台詞から読み取れるのは「一花にとってファーストキスの相手は上杉風太郎」という情報だけであり、「いつがファーストキスだったか」までは伏せられているのである。
また、ヤマカムの運営者である山田さんはこのような反論に対してTwitter上で下記のように再反論している。
ふつうに読めば「だから」は今のドラマでキス経験した後だけどになるんだよなぁ。変な深読みなんていらん
— 山田 (@yamakamu) 2019年9月18日
「普通」に読んでも「百合ドラマの後」とは限らない事は既に書いた通りだが、もう一点、「変な深読み」と仰っている事に引っ掛かった。
ひょっとすると、山田さんが今回の台詞について誤解したのは、最近顕著である一花のとある振る舞いを見落としている事が原因なのかな、と直感したからだ。
彼女は修学旅行後のフータローとの会話で、「全部嘘だよ」と、自身の本心を包み隠した。
第101話でも描かれたように、これは他の姉妹に対する罪の意識と、フータローに対する捨てきれぬ想いの板挟みになった結果の行動だろう。
「私なんか」と自信を卑下しながらも、自分が選ばれる期待を捨てきれずにいる。
鐘の下でのキスの候補に自分を除いた姉妹の名を挙げてみたり、自販機を使ってムリヤリ自分以外の選択を迫ったりしながらも、「お前だって……そうだろ」とフータローに言われた途端、欲求を抑えきれずにキスをしたりと、一花の言動は一貫していない。
罪悪感・諦念・期待・純粋な想いの中で、彼女の心は複雑に揺れ動いている。
第102話のラストも、一見するとフータロー争奪戦に再び舞い戻ったかのようにも読めるが、その実、「誰を選ぼうと」と、消極的な姿勢はそのままだ。
その心境の複雑さ(ここは敢えて女々しさと言い換えてもいい)故に、彼女は自身の本心を覆いながらも、それでいて含みを持たせるような言動をしがちなのだ(元々そういう傾向はあったが)。
一花の台詞を読むときは、その裏側に隠された意図までも汲み取らねばならない。
それは決して「深読み」などでは無いのである。
もっとも、山田さんは非一花派のようだから、選ばれた優良種である我々一花派のようには彼女の心を慮ることが出来ずとも、致し方ないことではあるが。
【一花と四葉って似てるよね(オマケ)】
この記事を書いていて思ったのだが、一花の心で渦巻く「罪悪感・諦念・期待」って、四葉が最初から抱え続けている問題でもあるんだよね。
二人の違う所は、一花の方がより自分の欲望に正直で、しばしば罪悪感を振り切ってフータローに求愛してしまう点だろう。
そして、これこそが二人の勝敗を決する要因でもある。
結局のところ、過激な求愛から一転して罪悪感から一歩身を引いた姿勢が図らずも押して駄目なら引いてみるの姿勢でフータローを『追う側』に回したり、かと思えば今回のようにまた急にグイグイと迫ってくる。
魔性と言うかなんというか、天性の男たらしである。
フータローが落ちるのも無理はない。
一方の四葉は自身の想いをほぼ完璧に隠し続けてきた。
だが、その抑圧は彼女の心を大きく歪めてしまっていることだろう。
以前から書いているように、やはり四葉の心を救うのは、(遥かに軽度とはいえ)同様の経験をした一花なんだろうと思う。