私は時として恐怖すら覚える事がある…。
己のこの、通常の人間では辿り着けぬ突出した洞察力に。
【伏黒パパ、善人説】
やはり、そうだった。
伏黒父は息子の恵に対して興味が無かった訳ではないのである。
とはいえ、この結論を導き出すのはさほど難しいことではない。
そもそもの話、息子に対して何の興味も無いような人間が、息子をわざわざ再婚相手の籍に入れるだろうか。
この時点で、実は伏黒父が恵の事を気に掛けている事は明らかだったのである。
普通に論理を組み立てていけば、伏黒父の「家族愛」に辿り着くのはある意味、当然の帰結であり、私が特別な発想の飛躍をしたわけでも無いので、そう自慢できることでも無いのかもしれない。
さてはて。
ここで伏黒父が死んでしまったとなれば、この出来事から2年ほど後だと恵が誤解している「蒸発」は虚偽だったことになる。
伏黒夫人は生きていたのだろうが、父親はとっくの昔に殺されていたわけだ。
では、なぜ恵が「父親は自分が小1の時に蒸発した」と誤解したのか。
当然ながら、誰かにそう吹き込まれたと考えざるを得ない。
そして、その犯人としての可能性が最も高いのは、誰あろう五条悟だ。
だとすれば、彼は呪術師としての才能を持った恵を「理想の生徒」とする為に、敢えて真実を隠して「お前は父親に捨てられたのだ」と教え込んだことになる。
少なくとも、伏黒父が遺言として息子の事を口にした時点で、子を想う気持ちはあったと想像できるはずなのに、それを恵に伝えようともしない。
『教育者』としてどれだけ五条悟が歪んだ存在かと言うことが、この事例からも解るだろう。
五条悟は過剰に伏黒父を貶めることで、恵の父親に成り代わろうとしたのだ。
【売られる】
伏黒パパ、善人説の記事を読んだ読者の中には、「いや、お前は『伏黒父が恵を呪術界から引き離そうとしている』と予想していたんだから外れてるだろ!」と思われた方もひょっとしたら存在するかもしれない。
しかしながら、これは全く的外れな指摘である。
何となれば「息子が売られるのが2,3年後」という時点で、子を奪われる事を伏黒父が抵抗していたことは明らかだからだ。
禪院家が「才能のある呪術師の卵を獲得したい」と思っているのであれば、2,3年も待つ必要は無い。
つまり、この謎の『猶予』は、「売り手」側である伏黒父の要望であると考えるのが自然だ。
彼はこの猶予期間になるべく多くの金を稼いで、恵を禪院家から奪われる事を阻止する算段を立てるつもりだったのだろう。
天元様の融合阻止のような世を混乱に向かわせる仕事に手を貸したのも、呪術協会をそれどころではない状況に追い込む為でもあったのかもしれない。
しかし、その計画は五条悟の手によって終わりを迎えた。
自分を否定した禪院家に渡すくらいならばと、伏黒父は息子を五条悟に託したわけである。
【五条悟】
前々から私が感じ取っていた五条の異常さが露骨に描かれた回であった。
結局のところ彼は、当代最強の呪術師となった今でも、「弱者を守る」という動機ではなく、自身の快楽や「才能ある人間」の探求に力を注いでいるということなのだろう。
五条悟という人間に対する私の危惧は、決して間違ってはいないのだと改めて確信できた。
あと、特級呪霊をこれまで散々取り逃がしてきた事により、「設定上の強さの割に功績が見劣りする」と言われてきたのもあってか、今回は必殺技の『虚式 茈』でキッチリ相手を仕留めていたのは好印象。
何より、これから人気が出そうなキャラである伏黒父を出し惜しみせず、ここでちゃんと始末したのは好印象だなあ。
こんなに人気が出そうなんだから、どうせ過去編では生き延びて、今後散々引っ張られるんだろうな……と正直ちょっと穿った見方をしていたので、芥見先生をまだ舐めていた自分を恥じ入るばかりである。
いや、この思い切りの良さは凄いや。