賭ける順番が逆だが気にしてはいけない。
週刊少年ジャンプ7号(2017年)感想はこちら
※以下、ネタバレ注意
プリンが腹黒い姿を見せてから2話分の話が進んだ。
しかし、前回の記事で書いた「プリンが白である根拠1から7」までのうち、根拠5の矛盾こそメモメモの実の存在が明かされたことで解消されたが、その他の項目で挙げた事柄は今でも活きている。
未だプリンが白という線が濃厚という状況に変わりはない。
また、最新の852話でも、プリンの黒い姿が演技である可能性を示す描写が新たに加えられた。
スムージーが部下との会話の中で「明日の計画」について口にした場面がそれである。
これは一見、ビッグマムがジェルマ66を騙し討ちするという計画の実在を証明するものであり、プリンが悪女であるという根拠となり得るものに思える。
だが、実際は逆なのだ。
スムージーは「明日の“計画”への影響が出る」ことを「全兵に知らせろ」と言っている。
これはつまり、「末端の兵士まで『明日の“計画”』のことを聞かされている」ことを意味する。
しかしながら、852話の感想でも書いた通り、とても全ての兵士が「明日、ジェルマ66を騙し討ちし、ヴィンスモーク家を皆殺しにする」という計画を知っているとは思えない描写があった。
まず、レイジュを看病した医者の言動。
彼はヴィンスモーク家が行方不明となったレイジュのことをさぞ心配しているであろうと配慮して見せた。
レイジュがいなくなったことでヴィンスモーク家が警戒心を強めることを恐れている口ぶりではない。
彼は「明日、ジェルマ66は滅ぶ」とは全く思ってもいないのだ。
末端の兵士まで共有されている情報を、城内で勤務するこの医者にわざわざ隠すだろうか?
情報漏洩を恐れているわけでもないのに、非戦闘員だからといって城内が混乱することを秘密にするメリットがあるだろうか?
ルフィとナミの連行をビッグマムに報告した兵士にしてもそうである。
ジェルマ66のファンである彼のヴィンスモーク兄弟に対する反応はあまりにも無邪気過ぎた。
憧れのヴィンスモーク家が皆殺しにされると聞かされているようには到底思えない。
極め付けは、ペコムズが「サンジも殺される」という情報を麦わらの一味に伝えなかったことだ。
ビッグマムの命に逆らっても麦わらの一味の恩に応えようとしたペコムズが、その情報だけ隠しはしないだろう。
末端の兵士にまで行き渡っている情報を、幹部戦闘員のペコムズにだけ知らされていないはずもない。
「ペコムズがゾウに行った後にジェルマ皆殺しが決まった」というのも考えにくい。
スムージーによると、「明日の計画はママの念願」。
『念願』と言うからには、ずっと前から計画されていたことになる。
ペコムズがゾウに来たのは、ルフィ達がゾウを出港する三日前。
ゾウからトットランドへの航海に想定されていた期間が一週間。
トットランドに着いてから二日。
ペコムズがゾウに来てから二週間も経っていないのだ。
これらの矛盾は何を意味するのか?
答えは一つ。「スムージーの言う『明日の“計画”』は、プリンが語った『ジェルマ抹殺計画』とは全く別のもの」ということだ。
単純な話である。
スムージーの「計画」とは、かねてより説明されてきた「サンジとプリンの政略結婚」を指しているのだろう。
「計画」という言葉を使うことにより、まるでプリンの語った言葉が真実であるかのように読者に錯覚させるミスリードというわけだ。
851話でビッグマムがレイジュにぶつけたこの台詞にしても同じだろう。
会話の流れからしても、ビッグマムはブルックの考えの甘さを指摘するために敢えて極端な例を出しただけだと思われる。
しかし、「みんな死ぬ」という点がプリンの語った「ビッグマムの計画」の内容と共通するため、「ああ、やはりビッグマムはルフィ達を騙していたんだ」と考えた読者も多いはずだ。
ミンク族の演技のときと変わらない。
我々は尾田先生の掌の上で踊らされているのである。
さて、スムージーの言う「明日の計画」が単に政略結婚を指しており、「ビッグマムがジェルマを騙し討ちしようとしている」という計画がプリンの偽情報だとすると、問題はそこにどういう意図があるのかだ。
プリン白説を採るにしても、サンジ→レイジュを通してジェルマ66にこの誤情報が流れることを期待した、というのは博打が過ぎる。
おそらくは、「サンジに『そもそもこの結婚は最初から偽物だった』と思い込ませたかった」というのがプリンの目的ではないだろうか。
サンジは一度プリンにプロポーズしている。
プリンがいくら嫌な女を演じてみせても、結婚それ自体が執り行われるとなれば、求婚の責任をとろうとするのがサンジという男だ。
それを解っているからこそ、プリンは「結婚式の計画自体が嘘だった」とサンジに思わせたのである。
結婚自体が偽物ならば、当然サンジはプロポーズしたことなど全く気にせずに済む。
悪女を演じたこと自体がサンジに嫌われるためであろうが、それと同様に、「ジェルマ66を騙し討ちする」という偽情報をプリンがサンジに聞かせたのも、彼がプリンに一切の負い目を感じることなくトットランドを出て、麦わらの一味に戻れるようにするためだと考えれば筋は通る。
そして、この計画。プリン単独でも、実行は可能だ。
サンジの見張りの兵士から、彼がプリンの弁当を作っていること、それを持ってプリンの部屋に向かっていることを聞くことで、演技開始のタイミングは計れる。
さらに、扉を閉めておけばサンジは窓から覗くだろうということも、彼が「目がハート」になることを知っているプリンなら予測可能だ。
あとは、ジェルマ66を自分から攻撃すればいい。
それだけでヴィンスモーク家は疑心暗鬼になり、ビッグマム海賊団に反撃に出るだろう。それで結婚は本当にご破算だ(当然、プリンは後からビッグマムに罰せられるか、ジェルマに殺されることになる)。
もう一つの可能性として、「レイジュとプリンがグル」というパターンも考えられる。
レイジュは最初からサンジを逃がすことを考えていた。そのレイジュと、サンジからプロポーズされるも、彼を結婚から解放しようと改めて決意したプリンが接触すれば、話はすぐにまとまったはずだ。
サンジを結婚に縛っていたもの。『手錠爆弾』と『人質』。
前者は既にレイジュがすり替えているし、人質の件もジェルマのビッグマム海賊団傘下入りの話自体を無くしてしまえば意味は無くなる。
だが、これらに加えてもう一つ、サンジを縛る新たな枷ができていた。
それが「プリンにプロポーズした」という事実だ。
この事実がある限り、手錠や人質の問題が解決されたとしても、サンジはプリンとの結婚を最早止めるまい。
一度プロポーズした女を捨てるなど、サンジにできるはずもない。
だからこそ、プリンとレイジュは「最初からプリンはサンジを裏切っていたし、そもそも結婚自体が嘘だった」とサンジに思い込ませたのだ。
850話からの一連の流れは、彼女たちの身を挺した一世一代の大芝居だったのである。
以上、様々の辻褄が合わない事柄から考えて、やはりプリンが心から黒い女である可能性は非常に低い。
花京院に加えて、アヴドゥルの魂をレイズするに足る賭けであろう。
というか、ここまで来てもう後には引けない。最早最後まで突っ切るのみである。